コラム KAZU'S VIEW
2017年04月
トランプ旋風は東アジアからヨーロッパへと吹き渡るのか?
第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプはAmerica First!を標榜し,多くのアメリカ合衆国国民の共感を得た.その風は太平洋を渡り,東アジアに吹き渡った.韓国史上初の女性大統領の弾劾,逮捕という政治的・経済的不安定は朝鮮半島の混乱をますます助長した.また,日本ではファーストレデイーの公私の問題が提起された.一方,ヨーロッパでは,昨年のイギリスのEU離脱が国民投票で決定し,第76代イギリス首相のテリーザ・メアリー・メイ(Theresa Mary May)は,離脱手続きを始めた.彼女は英国史上2番目の女性首相である.ちなみに,1番目のイギリス女性首相はマーガレット・ヒルダ・サッチャー(Margaret Hilda Thatcher)で彼女の在任期間は歴代最長であり,「鉄の女」(Iron Lady)と言われた.これに対し,メイ首相は氷の女王(the Ice Queen)と呼ばれている.また,5月に行われるフランス大統領選挙では,国民戦線女性党首マリーヌ・ルペン(Marion Anne Perrine Le Pen:マリオン・アンヌ・ペリーヌ・ル・ペン)女史が台風の目となっている.彼女もフランスのEU離脱の国民投票を明言している.
このヨーロッパでの状況変化の1つの要因としてシリアなど中東諸国からの難民問題が指摘される.かつて,4世紀から7世紀にかけ,民族大移動(大侵略)の影響を受けたヨ−ロッパ.この背景にはフン族が関わっているとされている.このフン族の王として名高いのがアッテイラ(Attila)大王である[1].このことがきっかけで,ヨーロッパは古代から中世と時代変化を起こしている.なお,同時期に東アジアでは,北方民族の南下に伴う五胡十六国時代(ゴコ ジュウロッコクジダイ)といわれる分立民族国家が形成されている.五胡とは南下した北方異民族のことを指している.ユーラシア大陸の西と東で起こった類似的現象は,何やら現在の世界情勢と重なり合っているような気がする.
1980年代にアメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲル(Ezra F. Vogel)[2]によるJapan as Number One: Lessons for America(1979年)などで,日本が日の出の勢いであった時,ある世界史学者の講演を聴いた.その内容は,世界の4大文明の風は,黄河文明に始まり,インダス文明,チグリス・ユーフラテス文明,そしてナイルエジプト文明へと移り,大西洋を渡ってアメリカへと伝わった.その風が,太平洋に渡り,再び東アジア(日本)に来た,というものであった.「なるほど」とその時は,納得した記憶がある.
ドナルド・トランプという男が起こした風は,太平洋を渡り,ユーラシア大陸の東から西に女性の手を介して吹き渡って,どのような変化を世界に巻き起こすのか.そして,その風が再びアメリカに戻った時,アメリカはどう変わるのか.丁酉(ヒノトトリ)の成果を見守りたい.
参考文献・図書
[1] トマス・クローウェル著,蔵持不三也監訳,伊藤綺訳,図説 蛮族の歴史 世界史を変えた侵略者たち,原書房(2009)
[2] Vogel,E.F., Japan as Number One: Lessons for America IUniverse,292(1979)
以上
平成29年4月