コラム KAZU'S VIEW
2019年04月
令和という時代を迎えて-蒲池幸子の人生に学ぶ寿命の価値-
いよいよ平成最後の月を迎え,新たな時代の象徴となる元号も「令和」として公表された.3月から花粉症の症状が続き,鼻水やくしゃみが収まったと思ったら,今度は咳と発熱に変わり4月を迎え,やがて蓄膿症との診断を受けた.その後,蓄膿症と薬アレルギーで1ヶ月が経過していた.なんとも情けない始末で平成を締めくくると思ったら,元気をもらえるTV番組を見た.「ZARDは永遠なり・・」というタイトルだった.
「・・追いかけて遥かな夢を・・」の歌詞は坂井泉水(サカイ イズミ)作詞,織田哲郎(オダ テツロウ:本名濱田哲郎)作曲の「負けないで」の一節である.坂井の本名は蒲池幸子(カマチ サチコ)と言い1990年代を代表するZARDのボーカルである.2007年5月27日に享年40才で他界した女性である.子宮頸がんだったとされる.今年は女性のがんがニュースになっていることが目立つ.女優の樹木希林さん,堀ちえみさん・・など,自らがん告知されたことを言葉にしている.現在,日本人が生涯においてがんで死亡する確率は,2017年の統計で男性25%,女性15%とされる[1].部位別に見ると男性で最も高いのは肺癌,女性は大腸がんになっている.がんも身近な疾病の1つになってきたと言うことであろう.
坂井さんの話に戻ろう.1991年2月にZARDのボーカルとしてデビューし,シングル6作目の「負けないで」が大ヒットした.8作目の「揺れる想い」や17作目の「マイ フレンド」などが著名であり,これらを含め総売り上げシングル枚数1775.5万枚,アルバム1999万枚のセールス記録を持っている.「・・きみと歩き続けたいin your(my/our) dream・・:揺れる想いの一節」,「・・ひたむきだった遠い日の夢は・・:マイ フレンドの一節」といったフレーズに心惹かれる.上記のTV番組で彼女は作詞法としてその時々の想いをフレーズとして書止め,これを紡いで歌詞を創ると言う方法を取っていたらしい.私のコラムの書方と似ている.1ケ月間で体験したり読んだりした書物から受けた心の動き(感性)の強さを主観的にランク付けし,それでテーマを決めて書き始める.書き進める中で情報収集をして関心のある事象や事項に関するデータや諸意見を集め,自分の思いを整理して見る.心ときめく事象や事項に出会えない月もあり,無理矢理創作することもあっが,2003(平成15年9月)から今日まで続いている.番組の中で紹介されていたが,彼女のファンで現在小学校の教諭をしている方が,卒論で坂井の作詩した全作品を対象に,その文書の中で現れる頻度の高かった単語のトップ4が「今」,「心」,「夢」,「愛」だったという話題を提供していた.これは現在,ビッグデータ・サイエンスという分野で使用されている,テキストマイニングという方法で解析するアプローチと同じである.この分析結果から彼女についてどんなことが類推できるか.「今」は時間的価値であり,心,夢,愛は心的価値になろう.また,「夢」は時間価値からは,未来を前提にしている.過去,現在に実現したものは,もはや夢ではないであろうから.先日コラムで触れた新一万円札にその肖像画が載ることが発表された渋沢沢栄一の「夢七訓」の一節に,「夢なき者は理想なし,・・ゆえに幸福を求むる者は夢なかるべからず.」と言うのがある.4つの単語を結びつけると,「心に愛溢れる夢を抱き,今を努力することから未来が拓け,夢の実現に至る(Dreams come true)」,という解釈ができないだろうか.坂井泉水の詩(ウタ)はそんなところに多くの人々の共感を呼び,勇気を与える応援歌となっているのではないか.彼女の命は40年であり,作詞家として,また,ボーカリストとして自身のメッセージを我々に伝え続けて来た期間は,17年間と更に短かったかもしれない.しかし,人生は積分であり,物理的時間(寿命)が短くても,価値創造の変化率が高ければ,長く,こつこつ価値創造をする人生と変わらないのではないか.どちらも人生という「個性の違い」として見ることはできないか.
平成から令和という区切りを心的価値の側面から眺めると,「令」には,「よい,すぐれている」とい言う意味があり,一方で「人を集め,言いつける,仕向ける.」もある.また,「和」には,「なごむ」,「合わせる」といった意味がある.これらの意味をポジテイブに捉えれば,共創,協働という意味になろう.その前提は,個々の多様な個性であり,「あるべき姿」(言いつけられた,仕向けられた夢)ではなく,「ありたい姿」(多様な個性として本人の内面から湧き出る夢)であって欲しい.そんな社会と人財育成を次代の夢としたい.
参考文献・図書
[1] 国立研究開発法人国立がん研究センター, 最新がん統計, https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html , 2019.4.15.アクセス
以上
平成31年4月