コラム KAZU'S VIEW

2020年12月

最初の干支のねずみ年はこれからの12年間の先駆けか

  日本時間の12月6日(日)の未明,6年間の宇宙の旅を終えて,やはぶさ2が無事に地球に帰還した.長旅,お疲れ様でした.彼(彼女?)が宇宙の旅をしている間に,この地球の極東の小島では様々な出来事がありました.特に,今年1年で,我々日本人は生活の根本から考え直すという機会に遭遇し,そのための新たな解答を見いだせないまま,新たな年を迎えようとしている.そう,君は,もしかしたら,今の日本人の多くの人にとっての「ほら響け,一番星」[1]なのかもしれない.しかし,はやぶさ2の残り燃料はまだ半分あるため,次のミッションへと宇宙の旅は続く.

 はやぶさ2は,2010年6月に小惑星イトカワから無事サンプルを持ち帰った,はやぶさ(2003年5月9日M-Vロケット5号機で打上)の後継機で,はやぶさが試験機であったのに対し,実用機として開発された.小惑星リュウグウから地球以外の天体や惑星間空間から試料(サンプル)を採取し,持ち帰ることをミッションとしていた.初号機はやぶさの研究目的は,太陽系の起源の解明に繋がる手がかりを得ることであったが,今回のはやぶさ2による研究目的は,太陽系の起源・進化と生命の原材料物質を解明することであったという[2].小惑星は,太陽の光を反射して輝くが,小惑星からの光のスペクトルを調べることで,いくつかのグループに分類される.はやぶさが探査した「イトカワ」は,主な構成材料が岩石質と推定される「S型小惑星」に分類される.Sは石質を意味する英語のStony,またはケイ素質を意味するSilicaceousに由来している.これに対して,今回のはやぶさ2が目指したのは,惑星の表面にある岩石の中に有機物などを多く含むと考えられている「C型小惑星」であるリュウグウである.Cは炭素質を意味するCarbonaceousに由来する.C型小惑星はS型小惑星よりも太陽系初期の情報を多く保っているとされている[3].

 2003年に初号機はやぶさの打上以降,JAXAでは,2010年5月金星探索機「あかつき」をH-IIAロケット17号機で打上,2015年12月7日金星周回軌道への投入成功[4],2007年9月に月周回衛星「かぐや」打上(2009年6月に月の表側に制御落下)[5]等の経験を積み上げ,2014年12月3日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット26号機で,はやぶさ2を打ち上げた.この間のプロセスは.決して平坦なものではなかった.その中で,2010年6月のはやぶさ帰還は,多くのメデイアにとりあげられ,満身創痍でそのミッションを成し遂げたことへの共感が,日本国民の宇宙開発への関心を急激に高めた.国家予算からの支援が滞る中で,宇宙開発への民間寄付の増加が後押しし,2012年1月25日に宇宙開発委員会において「はやぶさ2」の開発段階への移行が承認され,正式に「はやぶさ2」の開発がスタートした[6].初号機はやぶさの多くの失敗から学び(lessons learned)[3],100kg増量の衛星として,工学と科学の発展を目指すプロジェクトとしてはやぶさ2は進められた.はやぶさ2は今回のリュウグウからのサンプルリターンのミッションを無事終了し,新たなミッションのために再び地球を離れる.惑星間遷移軌道からの地球再突入の速度は,時速4万3000キロメートルの猛速度の上に,急角度の再突入では1万度の高熱発生が想定されていた.はやぶさの時は,再突入角度は12度だったという[3].ちなみに,アメリカのスペースシャトル,コロンビアの再突入角度は,1度であった.はやぶさ2から切り離されたサンプル収納カプセルは,日本標準時の2020年12月8日10時30分頃にJAXA相模原キャンパスへ到着した.はやぶさ2のプロジェクトに協賛した18万人余りのサポーターの名前の記載されたシートは小惑星への落下物および再突入カプセルに収納されているという.

 庚子(カノエネ)の年も残りわずかとなった.この年は,変化が生まれる年,新たにチャレンジする年と言われている.その象徴が,コロナ禍に対するwithコロナという新たな生活様式の始まりであったのかもしれない.COVID-19の感染拡大は,これまでに我々が培ってきた人の絆を断ち切る生活を強いてきている.これまで当たり前であった人との会話や交流が制約され,全ての人が内向な生活を体験してきた.この機会は,家庭や家族というものの見直し,個人を見つめる時間やリモートワークなどによる仕事のあり方を考える時間を提供してくれた.その意味で,自然のいい加減さ[7]を改めて確認できた年でもあった.今年の1月のコラムでは「庚子の初夢は不確実性への対処法の一考察」と題して,人の幸せについて考えて見た.この不確実性がCOVID-19だった.来る辛丑(カノト ウシ)は,植物が枯れて,朽ちる状況であり,一方で芽が種子の殻を破って出る状況を意味する.With コロナという生活様式の方向性が定まった庚子の年に続き,コロナ禍から這い上がるための模索の年になるのではないか.はやぶさ2のプロジェクトメンバーの“Lessons Learned”に習い,60代最後の年に70代への方向性を確認し,80代に向けての準備を心がけよう.

参考文献・資料
[1] GREEEEN Official website, http://greeeen.co.jp/,2020.12.6
[2] JAXA, 太陽系と宇宙の起源の解明に向けて 小惑星探査機「はやぶさ2」,
https://www.jaxa.jp/projects/sas/hayabusa2/index_j.html, 2020.12.9
[3] 山根一眞,小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦 : 太陽系と生命の起源を探る壮大なミッション, 講談社(2014)
[4] JAXA, 太陽系と宇宙の起源の解明に向けて:金星探査機「あかつき」(PLANET-C)https://www.jaxa.jp/projects/sas/planet_c/index_j.html, 2020.12.20
[5] JAXA, 月周回衛星「かぐや(SELENE)」, https://www.selene.jaxa.jp/index_j.htm
2020.12.20
[6] ウィキペディア(Wikipedia),はやぶさ (探査機),
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%82%84%E3%81%B6%E3%81%95_(%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F), 2020.12.15
[7] きたやまおさむ,前田重治,良(イ)い加減に生きる-歌いながら考える深層心理-(講談社現代新書2522),講談社(2019)
以上
(令和2年12月)

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