コラム KAZU'S VIEW

2021年07月

いよいよ始まったTokyo2020に思う-アスリートの心を持って新型コロナとの戦いに挑もう-

例年より,1ヶ月早い梅雨明けとともに,強烈な夏の太陽が輝き始めた.これを待っていたかのように,第32回夏季オリンピック大会(https://olympics.com/tokyo-2020/ja/)が23日から始まった.8月8日までの開催に続き,パラリンピックが8月24日から9月5日まで予定されている.2013年9月の第125次IOC総会(アルゼンチンのブエノスアイレスで開催)で,2020年大会の開催都市が東京に決定してから,本大会には様々な紆余曲折があった[1].そして,新型コロナ感染症拡大というパンデミックによるオリンピック史上初めての開催延期が2020年3月24日に決定した.更に,東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長交代,開会式直前での式典企画担当者の解任や辞任等があり,開会式は無観客開催という異例ずくめの9年間におよぶ大会準備になった.3時間余りの開会式を見て,最も印象に強く残ったのは,その時間の大部分の映像の主役である参加206カ国からの選手団の入場シーンであった.改めて,世界にはこれだけの国があったこと,選手達の衣装や入場行進に見られる行動様式の豊かさに改めて驚きを覚えた.そして,入場行進終了後に,夏の夜空に立体的かつ,動態的に1824台のドローンが描き出す,大会エンブレムの市松模様(注1)による地球の姿は,「世界は1つ」のメッセージを強く印象づけた.

東京2020大会開会式,閉会式に関する基本コンセプト最終報告には.次の記載がある[2]. 大会全体の歴史的,社会的意義に基づく「大会ビジョン」として以下の3つの基本コンセプトによって史上最もイノベ―ティブで,世界にポジティブな改革をもたらす大会とすること.すなわち,
(1)全員が自己ベスト,
(2)多様性と調和,
(3)未来への継承.
そして,このビジョンの前提となる歴史的意義については,前回の東京オリンピック大会(1964年)が,我が国の戦後復興のアピールと,その後の経済的,技術的発展が今日の物的,経済的価値の充足をもたらし,障がいのある人のスポーツを通じた社会参加を促すきっかけになったと位置づけた上で,今回の大会は,これを引き継ぎ,今後50〜100年後に振りかえった時に,「心が豊かな幸せな社会」(心的価値の充足)と持続可能な社会の実現に向けて,文化や社会,価値観が変わる契機となることが求められているとしている.一方,社会的意義については,ナショナリズムを超え,障がいの有無にかかわらず,若者を含め皆の参加意識を高め,一体感を醸成することで,世界平和を祈り,貢献し続けていくことを目指し,アジアの発展と繁栄のためのアピールを世界に向けて発信する,としている(注2).その上で,2つの大会の開会式と閉会式を起承転結の4画面[4]として構成している.すなわち,「起」はオリンピック開会式,「承」はオリンピック閉会式,「転」はパラリンピック開会式,「結」がパラリンピック閉会式と位置づけしている.
 
オリンピック競技大会の前半での日本人選手の活躍はめざましいものがある.メダル獲得数で見れば,金メダル17個,銀メダル5個,銅メダル8個の計30個と,中国,アメリカに次いで3位につけている.しかし,連日の感動的な場面やメダリストインタビューでの大会開催へのお礼の言葉,そして,何より,選手達の涙と勝利の喜びの姿は,見ている我々に,コロナ禍の暗さと息苦しさを忘れさせてくれる強いメッセージ性がある.また,当該大会で新たな競技種目として加えられたスケートボードやサーフィン競技の初代日本人メダリストの登場や,長年の宿願である金メダル獲得を達成した卓球やフェンシングといった種目の話題,そして,女子スケートボードのゴールドメダリスト西矢 椛(ニシヤ モミジ)選手が若干13歳330日で誕生したこと.これは,それまでの最年少記録保持者であった水泳の岩崎恭子(イワサキ キョウコ;1992年バルセロナ大会)選手の14歳6日の記錄を更新したことなどが,時代の革新を感じさせてくれる.その一方で,金メダル獲得を確実視されていた選手の予選敗退もあり,勝負の厳しさと1年遅れの開催という不運さをこのオリンピックは教えてくれている.

日本選手の華々しい活躍の一方で,新型コロナ感染症の急拡大が続いている.7月29日には,全国の1日の新規感染者数が1万人を超えた.その一方で,新規感染者の年齢構成が,従来と大きく変わってきている.感染者の中心が,高齢者から若年層へとシフトして来ていることだ.東京都のデータで見ると7月時点で,50歳未満の新規感染者数は8割を超えている[5].コロナ禍は人の絆を分断する.国と国,県と県,家族と家族,隣人と隣人,そして世代間の交流を妨げる.オリンピックは,国と国の分断に抗し,「世界は1つ」の実現を目指す試みと言えよう.そして,選手と応援団の絆が人間の身体的,精神的限界をも超える成果を出させる場でもある.オリンピック新記録や世界新記録の達成は,その事の実証である.スポーツは競争相手の有無に関わらず,最終的には「己に勝つ」ことが,その命題になる.その姿を見て,感動というパワーをもらっている我々観戦者は,コロナとの戦いを通じて,己に勝つための試練に立ち向かう必要があろう.その戦い方は,これまでの新型コロナに対する未知,無知の段階からの累積的学習効果を踏まえ,これからは人それぞれのおかれた立場と人間性および創意工夫を持つ多様性に満ちたものになるのではないないか.そこに全員が自己ベストを尽くし,未来への継承を全世代で担うことになる.夏の夜空に描かれた市松模様の多様な組合せの映像が,ここ数年見ることのできない花火大会の打上花火のような儚い夢に終わらないようなオリンピックであり,開催国の国民の象徴であることを願う.
 
(注1)東京2020エンブレムは,野老朝雄(トコロ アサオ)氏のデザインで,「組市松紋(クミイチマツモン)」という作品名である.形の異なる3種類の四角形を組み合わせ,国や文化・思想などの違いを示している.違いはあってもそれらを超えてつながり合うデザインに,「多様性と調和」のメッセージを込め,東京オリンピック・パラリンピックが多様性を認め合い,つながる世界を目指す場であることを表している.市松模様は,江戸時代に広まったチェッカーデザインとしてとして世界中に愛されている.この形を日本の伝統色である藍色で表示し,日本文化の「粋(イキ)」をアピールしている[3].
(注2)原文の一部表現を著者が変更している.

参考文献・資料
[1]  2019年07月「後1年を切ったTokyo 2020に今の日本人は何を夢見るのか」
https://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/ishii/column.cgi?id=192 ,2021.7.26.アクセス
[2] 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会,Tokyo2020開会式,閉会式企画,
 https://gtimg.tokyo2020.org/image/upload/production/fga4kzbg6ufvftvqdz9w.pdf
https://recruiting.tokyo2020.org/jp/outline/index.html ,2021.7.26.アクセス
[3]  東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会,東京2020エンブレムhttps://olympics.com/tokyo-2020/ja/games/emblem/ ,2021.7.26.アクセス
[4] 石井和克, 技術者基礎としての管理技術教育〜キャリアデザインと管理技術の融合を目指して〜,IEレビュー,Vol.61. No.5, pp.29-35(2020)
[5] NHK, 東京都の感染状況(年代別・感染経路),特設サイト:新型コロナウイルス,
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/by-age-tokyo/ ,2021.7.31.アクセス

以上
令和3年7月

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