コラム KAZU'S VIEW

2022年04月

日本の国際的リーダーシップとは-若大将が問いかけるリーダーシップモデルの難しさ-

  「復活若大将 加山雄三音楽を愛して」という番組を見て,色々な面で元気をもらった.この4月から第二の人生の旅立ちを前にして,色々と今後の人生設計について思いを巡らせていた時期であったので,彼の生き様が眩しく写った.2019,20年の2回,脳梗塞(ノウコウソク)と脳溢血(脳出血:注1)で倒れ,一時は言葉の呂律がうまく回らなくなった.しかし,その後,辛いリハビリを経て,84歳でステージに立ち,エンターテイメントを行う若大将の姿に改めて敬服の念を抱くと共に,人生の喜怒哀楽の積み重ねの中に若大将物語を淡々と語る様子を見て,自らを奮い立たせる共感を覚えた.若大将の復活を通じて, ゼレンスキー大統領の宿題である日本の国際的リーダーシップについて考えてみた.

  加山の映画スターとしての存在を揺るぎないものとしたものは,東宝が1961年から1971年まで製作した全17作(第1作目の「大学の若大将」から第17作目の「若大将対青大将」)構成による加山雄三(カヤマ ヨウゾウ)主演の若大将シリーズである.このシリーズの産みの親は,プロデューサー藤本真澄(フジモト サネズミ)と脚本家田波靖男(タナミ ヤスオ)のコンビであるとされる[2] ,[3],[4].加山は1960年に映画デビューし,田中友幸(タナカ トモユキ)プロデューサーの「独立愚連隊西へ」で,同年,初主演を果たした.翌年には「夜の太陽」で歌手デビューしている.また, 弾 厚作(ダン コウサク:注2)のペンネームで作詞,作曲も手がけている.自身の主演映画で,若大将シリーズ第6作目の「エレキの若大将」の主題歌であった「君といつまでも」は,彼自身の5枚目のシングル盤として,350万枚を超える大ヒットとなり, 1966年の第8回日本レコード大賞特別賞となった[3],[4].この映画が公開された当時,私自身は中学生であったが,記憶を辿ると,中学での映画鑑賞会のような催しを通じて見た記憶がある.この映画を通じて当時,ベンチャーズ,ビートルズ,ローリングストーンズといった海外の音楽動向の影響を受け,エレキギターやベースにボーカルを組み合わせたグループサウンズ(ド)と呼ばれるグループ演奏の流行に,私自身がかなり影響を受けたような気がする.子供とも大人とも言えない,多感な年代で受けた強烈な印象が,今でも強く記憶に残るエンターテナーとして,加山像は未だに鮮明で懐かしい.番組を見て,彼の歌う楽曲の歌詞に出てくるキーワードには「夜空」,「夢」,「海」,「男」,「星」,「風」などが多い事に改めて気づかされた.

 若大将とは,年若い「大将」と言うことであろう.この大将と言う言葉の意味を調べてみると, 広辞苑やデジタル大辞泉では,以下の定義が載っている.
(1) 全軍または一軍の指揮,統率をする者.
(2) 最高級の陸海軍部官で,中将の上.
(3) 近衛府(コノエフ)の長官.左右各一人.
(4) 剣道や柔道などの団体戦で,最後に戦う選手.
(5) 一群の首長,かしら.
(6) 同輩・目下の男性を,親しみやからかいの気持ちを込めて呼ぶ語.
上記の(1)〜(5)の定義は,リーダー的な存在と言うことになろう.しかし,若大将シリーズの大将のイメージは(6)の親しみやすい人間という人間性の側面がかなり強い.リーダーとはリーダーシップを持つ人間とういことになる.リーダーシップ理論の一つとして知られるのがPM理論[5]である.1966年に社会心理学者である三隅二不二(ミスミ ジュウジ/ジフジ)によって提唱されたモデルである.PM理論は,リーダーシップを集団機能の観点から認識しようとするものである.つまり「組織を発展させる機能は何か?」をリーダーシップと言う概念で説明しようとする試みになろう.PM論の中でリーダーシップは,「目標達成機能(Performance function: P機能)」と「組織維持機能(Maintenance function: M機能)」の2つで構成されているという仮説に立っている.すなわち,P機能は,目標を定め計画を立てて指示を出すなど,成績・生産性を向上させるための能力のこと.一方,M機能は,組織全体の人間関係に着目し,友好に保つとともに強化・維持する能力を指す.この2つの機能とその大きさ(大小)との関係から,リーダーのタイプをPM型,Pm型,pM型,pm型の4つに分類する.この表記法では,大文字はその能力が大きいことを,小文字は能力が小さいことを意味する.従って,P機能とM機能の2つともに大きいPM型は,リーダーの理想像として定義されている.目標達成のための行動力もありながら,組織全体を良好かつ強化・維持できるリーダーといえるリーダーシップパターンで,仕事ができて,かつ,人間的魅力に富んだリーダーモデルを理想としている.大将の定義として上がっている(1)〜(5)はP機能,(6)はM機能に該当する.若大将シリーズはM機能を共通として各作品ではP機能を様々に変化させてシリーズ化したものと考えられる.

  今の世界を見渡したところ,どのような人物が理想的なリーダーなのか,見出すのが難しい時代になってきている.このところ,その挙動が世界中の注目を集めている国家リーダーは, ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領とウォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー大統領の2人であろう.その注目の観点は別にして,この対照的なリーダー像は,実際の戦場から遠く離れた場所に生活する我々には,デジタル技術によって伝えられる情報を基にするしか形成できない.このフィルターを条件として判断すると,PM理論のM機能は, ゼレンスキーの方が高いように判断される.この判断は,彼の前歴である俳優としての表情の豊かさや対話の場の距離感(プーチン大統領の対話映像は,異常と思われるほど長い机を挟んだ会話のシーンに象徴されている)といった視覚的印象の影響が大きい.戦闘を行っている兵士のモチベーションもインタビュー映像などから明かに違いが分かる.一方,P機能面からは,軍事力の物理的格差から推測された大方の予想に反し,戦闘の長期化の様相を呈している.ユヴァル・ノア・ハラリ[6]は,戦闘開始数日後の2月末時点で, 「プーチンは負けた」と題する寄稿を英国ガーデイアン紙に行っている.彼の「ウクライナの人々が,この先の暗い日々だけではなく,今後何十年も何世代も語り続けることになる物語が,日を追って積み重なっている.・・中略・・長い目で見れば,こうした物語のほうが戦車よりも大きな価値を持つ.国家はみな物語の上に築かれている.」という言葉は,人間の恨み,辛みなどのネガテイブな情動は,DNAの中にアルゴリズムとして伝承されることを示唆しているように思われる.日本の国会での演説で, ゼレンスキーは日本に国際的なリーダーシップの発揮を要請した.平和への願いをDNAとして次代に受け継ぐ民族として,我々は今,何を考え,実践するのかが,世界が日本に問いかけている課題のような気がする.

(注1)脳梗塞とは,脳の動脈が詰まって血液の流れが悪くなり,脳がダメージを受ける病態である.脳出血とは,脳の血管が破れて血液が漏れ出る病態で,昔から脳溢血(ノウイッケツ)という言葉があるが,それは「血が溢(アフ)れる」,つまり脳出血のことである[1].
(注2)弾厚作の名前の由来は, 加山が敬愛する團 伊玖磨(ダン イクマ)と山田耕筰(ヤマダ コウサク)を足して二で割ったことから生まれたとされている[2].

参考文献・資料
[1] 慶応大学病院,脳梗塞,脳出血(脳卒中),医療・健康情報サイト,
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000326.html#: ,2022年4月25日アクセス
[2] フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」,若大将シリーズ,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A5%E5%A4%A7%E5%B0%86%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA ,2022年4月25日アクセス
[3] フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」,加山雄三,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E5%B1%B1%E9%9B%84%E4%B8%89#cite_note-%E5%85%A8%E5%8F%B2528-3 ,2022年4月25日アクセス
[4] 田波靖男,映画が夢を語れたとき-みんなが「若大将」だった.「クレージー」だった.広美出版事業部(1997) 
[5] 三隅二不二, 新しいリーダーシップ:集団指導の行動科学,ダイヤモンド社(1966)
[6] ユヴァル・ノア・ハラリ著, 柴田裕之訳,プーチンは負けた-ウラジーミル・プーチンがすでにこの戦争に敗れた理由-(Why Vladimir Putin has already lost this war, The Guardian, 2022, 2, 28), 河出書房新社, https://web.kawade.co.jp/bungei/34777/
,2022年4月25日アクセス.
 令和4年4月
以上

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