コラム KAZU'S VIEW

2022 年05月

日本民族滅亡仮説-子供の日の意味を改めて考える-

3年ぶりに3人の孫達と一緒に,こどもの日を祝うことができた.正月に会ったばかりであったが,半年程度でも3歳,5歳,7歳児の成長は見た目で分かった.それぞれの個性が明確になってきた.そんな矢先, テラス社やスペースXのCEOでツイッター社を買収したこと等で何かと話題に上るイーロン・リーヴ・マスク(Elon Reeve Musk)が,自身のツイッターで,「日本はいずれ存在しなくなるであろう:Japan will eventually cease to exist.」というメッセージを発したというニュースを目にした.これは,2021(令和3)年10月に日本の総人口が64.4万人減少し,1億2550万人になり,その減少数は1950(昭和25)年以降最大幅となったという総務省統計局の「人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)」という報道[1]に対するつぶやきだった.その背景には,2007年から始まった人口の自然減,すなわち年間死亡者数から出生者数を差し引いた人数の増加がある.改めて,現在の日本社会が抱えている少子化,高齢化について認識を深め,孫達を含め,この国の未来について考えることにした.

 日本民族滅亡仮説は,西暦3776年8月12日に日本民族は滅亡するという国立社会保障・人口問題研究所(以下,社人研と表記:注1)から出された予測結果から出ている.2015(平成27)年の国勢調査で,日本の総人口は約1億2710万人で,5年前の調査結果から96.3万人減少した.日本の総人口が減少したのは1920(大正9)年の調査開始から約100年間で初めてであった.さらに,2016(平成28)年の年間出生数が,97.7万人と統計を取り始めた1899(明治32)年から初めて100万人を下回った[2],[3]. この数字は,「令和元年(2019) 人口動態統計の年間推計」[4],[5]によると2019年の出生数約86.4万人(86万ショックと呼ばれる)に対し,年間死亡者数が約137.6万人となり,日本の総人口は前年に対し,51.2万人減少と予測された.そして,コロナ禍による影響は,出生数として,2021(令和3)年に75万人,2022(令和4)年には70万人割れが予測されている.この数字は,2017(平成29)年時点での社人研の予想では,75万人は2039年に,70万人割れは2040年代半ばとなっていたものが18年から20年以上加速化したことを物語っている[6].一方,総人口に占める65歳以上の人口の割合を高齢化率という.この高齢化率が7%を超えると高齢化社会,14%を超えると高齢社会,21%以上は超高齢社会と呼ばれる. 2021(令和3)年9月15日現在推計での日本の高齢化率は, 29.1%と過去最高となっている[7].この現象は, 2025年には団塊の世代が75歳を超えることから,いわゆる2025年問題と呼ばれている.しかし,高齢化の問題は,河合[3]が指摘するように,実は2040年代に1971(昭和46)~74(昭和49)年生まれの団塊ジュニア世代と呼ばれる人達が70歳になり,2042年に高齢者数がピークとなる3935万人の時を迎える「2042年問題」が本質的な問題となる.さらに,この高齢化は,少子化の視点から女性に注目する必要がある.つまり,出産は女性しかできないからである.2017(平成29)年の女性の高齢化率は30.1%であり, 2020(令和2)年には50歳以下の日本女性は50%以下になると見込まれる点を考慮しなければならない[3],[6].これは女性の出産可能年齢が49歳までとされていることから(注2),出生数の増加可能性が著しく低下することを意味する.このように,出生数の低下と高齢化率の増加の2つの現象が,生産年齢人口(15~65歳)の減少を招く状況は,「人口時限爆弾」と呼ばれている.高齢化率が7%から14%になるまでの期間を国別に見ると,最速の日本が24年,ドイツが40年,イギリス46年,アメリカ72年,スウェーデン85年,フランス115年等となっている[3].このことから,日本の高齢化スピードは世界的に見て,その急速性が特異であることが分かる.ここで,少子化の問題を考える時,合計特殊出生率が改善しても出生数の増加にならないことを河合[3]が指摘していることに注目すべきである. 合計特殊出生率とは,1人の女性が一生の間に産む子供の人数を意味する.河合は,2005(平成17)年の合計特殊出生率が1.26であったのに対し,2016(平成28)年には1.44と改善されているにもかかわらず,出生数は106.3万人から97.6万人と8.6万人の減少となっていることを指摘している.その理由として,これまでの少子化によって,未来の母親となる女児の数が減ったことを上げている.これが少子高齢化のスパイラルの主因となっていると指摘する.この日本の総人口の減少傾向は,今後も変わらず,2067年には出生数54.6万人に対し,100歳以上の人口が56.5万人となるという試算も出ている[3]. 世界の人口は2015(平成27)年で73.5億人,2050年で97.3億人,2100年には112.1億人になると予想されている[3].人口動向における世界と日本の差異が,日本民族滅亡のシナリオを際立たせている.

人口減少をもたらす出生数の減少,高齢者数の増加,社会を支える働き手世代の減少が世界に類を見ない速さで進んで行く日本の将来に対し,これをどう評価し,積極的対応を考え,行動していくかは,将来を担う我々の子孫に対する責務であり,今後,同様な状況を抱える国々に対しても貴重な事例を提示することになる.2015(平成27)年の国勢調査で人口減少を確認して以来,我々は人口減少問題にどのように取り組んで来たのか.私自身,イーロン・マスクの指摘を話題にした情報で初めて認識したが,河合は一連の著作活動[3],[6],[8],[9]を通じて,2017(平成29)年以降,この問題に対する啓蒙活動と対策提言を行って来ている.今回,彼の著作に触れ,この問題の深刻さを初めて認識できた.すると,TV番組などでこの問題に触れていることに気づくことが多くなった.この3月末で退職し,2ヶ月が経過した.在職中は,大学教育の視点で18歳人口には関心を持っていた.18歳人口は2009(平成21)~18(平成30)年頃までは,120万人程度を維持したが,その後減少し,2024年で106万人,2032年に98万人と100万人を割り込むことが予測されていた.このような背景から,中央教育審議会大学分科会は,大学進学者数が2017(平成29)年の約63万人から2040年には51万人と12万人の減少を予測している[10].この情報が,即,高等教育機関の経営危機問題に直結されて議論される場面に度々直面した.これは,少子化が起因する高卒入学者に関するマーケット情報のみでの議論であり,人口減少問題の他の側面である,高齢者増加という需要側面を考慮した経営問題の議論になっていない.つまり,今後の高等教育機関の社会的使命は,来るべき知識基盤社会において,市民として積極的に生きていくための能力の付与にあると考えられる[11].この知識基盤社会では,技術,経済等の社会環境の変化に自ら対応し,生き抜く能力が必要とされる.従って,いわゆる生産年齢人口としての年齢特性を終えた高齢者は,人生100歳時代を生きる社会では,新たな環境変化に対応するための能力を得るために,学び続ける必要がある.この要求に応えることが高等教育機関の使命と考えるなら,高齢化社会はその需要が今後増大することが確約されているマーケットになる.問題は,その需要を満たすどのような教育プログラムを開発・提供出来るかにかかってくる.これは,高等教育機関がこれまでの社会人教育プログラムで提供してきた職能教育以外に,30年以上を高齢者として安心・安全そして楽しく生き続けるための人間力を養うプログラム開発が必要となる.このプログラム開発ための真のニーズは何か,を見出し,そのニーズを満たすための教育プログラム開発技術の構築が,人口減少環境下の新たな社会を生産年齢人口の人達と高齢者の共創によって実現することができないか.

日本の若者に「何故結婚しないのか?」と問うと,結婚する資金がないからと回答するが,ヨーロッパの若者に「何故結婚するのか?」と問うと,資金が無いから2人でシェアして生活するため,という答えが返ってくる,という調査結果を聞いたことがある.この違いはどこから来るのか?人口減少問題に関連し,日本人の晩婚化,高齢出産化が進んでいることが,少子化に拍車をかけているとする指摘がある.朝ドラ「ちむどんどん」の1場面で,主人公の姉が,初産を前にして,「私は母親になれるか?」と自分の母親に問うた時,母親は「子供が母親にしてくれる」と答えていた.人は人に出会って変われる(成長できる)と言うことであろう.新型コロナは,人の絆を断ち切ることを強いた.しかし,医療従事者の献身は,改めてその絆をつぐむ場面も作りだした.一方,新型コロナは世代間の絆を断ち切る作用ももたらした.そこに,人口減少問題が加わり,現在の社会保障制度を支える側と利用する側という利害関係問題がその絆にのしかかっている.しかし,この危機を機会として捉え,世代間の共創の機会として利用することを考えてはどうか.学び合う場に年齢の長短は存在しないことが世代間共創の前提になる.2年目を迎えた町会長の役割の中で,そんな試みをしてみたいと思う.3人の孫のきらきらした目が心に残る子供の日であった.

(注1)国立社会保障・人口問題研究所( National Institute of Population and Social Security Research; IPSS)は,厚生労働省の施設等機関である.人口研究・社会保障研究はもとより,人口・経済・社会保障の相互関連についての調査研究を通じて,福祉国家に関する研究と行政を橋渡しし,国民の福祉の向上に寄与することを目的としている[5].
(注2)合計特殊出生率を計算する際には,母親になり得るとされる女性の年齢は15~49歳とされている[3].

参考文献・資料
[1] 総務省統計局, 人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)結果の要約,
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2021np/index.html , 2022年5月18日アクセス
[2] Mediagene Inc., 過去最低の出生数.日本消滅の危険を示す7つのサイン【訂正】,Business Insider, Mar. 21, 2017, https://www.businessinsider.jp/post-1343
,2022年5月18日アクセス
[3] 河合雅司,未来の年表 人口減少日本でこれから起きること,講談社(2017)
[4] 厚生労働省, 令和元年(2019) 人口動態統計の年間推計, 令和元年12月24 日,
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/index.html
,2022年5月18日アクセス
[5] フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」, 国立社会保障・人口問題研究所, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E3%83%BB%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E5%95%8F%E9%A1%8C%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80 ,2022年5月18日アクセス
[6] 河合雅司,未来のドリル : コロナが見せた日本の弱点,講談社(2021)
[7] 総務省統計局, 高齢者の人口, https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html
,2022年5月20日アクセス
[8] 河合雅司,未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること,講談社(2018)
[9] 河合雅司,未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること,講談社(2019)
[10] 文部科学省,18歳人口の減少を踏まえた高等教育機関の規模や地域配置関係資料,
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/12/17/1411360_10_5_1.pdf , 2022年5月18日アクセス
[11] 文部科学省, 我が国の高等教育の将来像(答申),
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05013101.htm
  , 2022年5月18日アクセス
 令和4年5月
以上

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