コラム KAZU'S VIEW

2023年01月

壬卯の年の初夢

 
壬卯(ミズノエ ウ)の年の元旦は小雨混じりの朝で始まった.昨年に引き続き,地元神社の元旦祭が8時30分よりあり,町会を代表して祭儀式に参列し, 玉串奉奠をする役目があった.昨年の元旦祭の時は,前夜から積雪があり,新雪を踏みしめての初詣であったが,今年は暖かなで適度なお湿りの中で行われた.神社には百段余りの階段があるが,雪もなく足の運びもスムーズであった.帰宅し,昨年同様,年末から来ていた孫3人達と新年の挨拶を交わした.平穏な新年の始まりであった.年男という年回りの1年の初夢を妄想してみた.

今年の元旦は,雪かきもなく,何か物足りなさを感じた.昨年末のクリスマス豪雪は,金沢でも珍しく,積雪が30センチを超え,雪かきが2日間続いた.腰痛の心配をしたが,予想外になかった.半年間通ったスポーツジムの効用だと勝手に解釈している.雪の多い地域では,除雪という生活環境は社会的負荷になっている.除雪コストも相当な金額に上る(注1).町会活動でも除雪・排雪問題は,安全・安心な生活環境維持の費用対効果の視点で難解な課題で,「溶けて流れりゃ,みな同じ.」という一言では片付けられない深刻な問題の1つである.雪に閉じ込められる生活から解放され,雪が降っても出歩けるという便利さを獲得するための社会的課題は,超高齢社会(注2)を迎えて益々その深刻さを増してきている.「便利さ」は必ずしも良いことではないように思う[3].「人は易(ヤス)きに流れる(注3).」の例えがあるが,「便利さ」を獲得するために失う価値という機会損失を考慮に入れて「不便さ」の利活用という視点でこの難題に取り組むことで新しい解答が得られないかと思う.その一方で,正月早々に家族から発熱者が出た.「いざ,コロナか?インフルか?」と勇みだったが,正月早々の発熱外来で,単なる風邪との診断結果であった.この一連の騒ぎで,家族そろっての初詣は,元旦祭に詣でた地元神社で済ませてしまった.例年,三が日の初詣は,初詣客で混雑する著名な神社で行ってきた.その初詣は,混雑のためにマイカー規制が敷かれ,新春初詣バスと言われる公共交通機関を利用するものであった.しかし,今年の初詣は,近所の地元神社でこれまでとは一風変わった体験であり,殊の外,新鮮さを感じた正月三が日を過ごすことができた.これを人は,安寧(アンネイ:世の中が穏やかで平和なこと,広辞苑第五版[5])と言うのであろうか.

今年は,6回目の年男となる.気持ちとしては,一発何かをやってみようという気概はあるものの,具体的に,何を,どのようにしたら良いかを思いあぐねている.72年間の自らの人生の中で新たな習慣を取り込もうとするとき,これまで「行動と感動の振り子」モデルを参考にしてきた.前回の卯年のコラム[6](注4)でも言及した.このモデルは,行動と感動の相互作用を前提に,行動を変える,すなわち習慣を変えるきっかけとして感動,すなわち,心の動きを利用するという考え方である.この心の動きはその特性の違いから情動(emotion)と気分(mood)に分けて考える.情動は大きな心の動きで,その継続時間は短く,発汗や心拍数の増加などの生理的反応が明確で,その原因も特定できる.一方,気分は心の動きは小さく,その継続時間は情動より長く,その原因は不明確である.そして,情動の方が行動の変化を誘導する力が強いと考える.従って,このモデルを使って行動を変えるためには,情動の原因を制御して情動を誘発し,これを行動変化に仕向ける仕掛け作りが必要になる.しかし,この仕掛けがこのモデルでは,具体的でなかった.そんな矢先,独学大全[7]という書物を手にした.著者の読書猿は,「独学者とは,学ぶ機会も条件も与えられないうちに,自ら学びの中に飛び込む人」,すなわち,「自律した学習者」と定義している.そして,新たな行動を身につける,すなわち行動を変える具体的な方法として,2ミニッツ・スターター(注5),短時間ダッシュ法(注6)および既に確立している習慣を足がかりにする方法(注8)の3つの方法を提案している.前者の2つは,ともかく行動を起こし,その行動は簡単・短時間なものを繰り返すことにポイントがある.3つめの方法は, 行動と感動の振り子モデルの「感動」が,プレマックの原理における行動を強化する刺激である「強化子」(注8)に該当することを意味し,これを探す手間を省く代わりに,既存の自分がよく行っている行動に着目し,これからのありたい姿(新しい行動,習慣)と比較しながら行動変革の手がかりを探していく方法になる.この方法は,感動という見えない対象に対し,行動という見える対象を手がかりにする点で分りやすさがある.この3つの方法を従来の行動と感動の振り子モデルと組み合わせて見たい衝動を持った.

  齢を重ねることを体と心で感じながら残る人生を考え,行動することを昨年来から意識的に行って来た[13].時間環境と人間環境が昨年の退職後で大きく変わって来ている.時間環境は,独学者としての特性がより強くなった.人間環境は,地縁ネットワークが新規に拡大し,多様な年齢層や職歴層の方々と出会う機会が増加した.このKAZU'S VIEWを開設したのが2003(平成15)年9月であり,足かけ20年を経過した.12年前に還暦を迎えた年の1月のコラム[6]でも,行動と感動の振り子モデルに言及し,目指す方向を振り子の振り幅を大きくする行動変革に設定した.先月のコラム[13]でこの12年間を簡単に振り返ったが,この間の環境変化と行動の変化は,かなり大きなものであった.しかし,自分の振り子の振り幅がどれだけ変化したかを明確に実感できていない.更に,コラムに引用する過去のコラムの件数が増えてきていることが何を意味するのか.単なる回帰なのか,進化なのか.これが, 人の知性の獲得を説明する仮説である「認知的ニッチ構築」(注9)に当たるのか,をこれから検証してみたい.そんな初夢で目が覚めた.

(注1)2018(平成30)年の石川県の道路除雪費は32億円を計上している[1],[2].
(注2)65歳以上を高齢者と定義し,その割合が全人口の21%を超えた社会を「超高齢社会」と呼ぶ.日本は2010年に65歳以上の人口が全人口に占める割合である高齢化率が,23%を超え,超高齢社会を迎えた.
(注3)この言葉は,「水は低きに流れ,人は易きに就く.」とセットで用いられることが多い.その原典を遡ると,「水は低きに流れ」は, 孟子の「水之就下」に行き着く.更に, 孟子の「人性之善也,猶水之就下也」の用法から,人の本性が善であることは,水が低きに流れるのと同じである,という人の性善説を意味すると考えられる.一方,「人は易きに就く」は,中国の成語「避難就易」すなわち,「難きを避け易きに就く」から来ているとうい指摘がある[4].これは,人の性悪説と考えられる.従って,この2つの対照的意味合いの真偽は別として,この組み合わせの創作者の意図に関心が持てる.
(注4)この時のコラムのタイトル「6回目のうさぎ年を迎えた新春に思うこと」は誤りである.年男は誕生年を含まないので,正しくは「5回目のうさぎ年を迎えた新春に思うこと」になる.
(注5)この方法は, ともかく始めて見て先延ばしにしないことに注目した技法である.その方法は,2分間の動作を行い,時間が来たら途中でもストップする.その後,2秒内に以下の3つの選択肢の中から1つを確実に行うというものである[7].
,修里泙淦限時間なしで同じ作業を続ける,
2分間で違う行動に取りかかる,
9堝阿鬚笋瓩撞抃討垢.
 この方法は,以下の効果を前提としている.
(1)単純接触効果
繰り返し触れることで好感度が増し,大きく時間のかかる課題を正確な所要時間に分割できる.
(2)未完成で中断した作業をやりたくなる効果(オヴシアンキーナー効果[8])
(注6)この方法については,以下の2つの方法が上がっている.
(1)ポモドーロ・テクニック(Pomodoro Technique)[9],
(2)Greasing the groove[10].
ポモドーロ・テクニックとは, 1992年にイタリア人のフランチェスコ・シリロ(Francesco Cirillo)によって考案された短時間の集中作業を繰り返すことで,一日の内,集中力の高い状態にいる時間を増やし,知的生産性を高める技法である.この技法ではタイマーを使用し,25分の作業と5分の短い休憩で作業時間と休憩時間を分割する.この作業と休憩の1セットを「ポモドーロ」と呼ぶ.このポモドーロの途中で中断した場合は,やり直しをする必要がある.そして,このポモドーロを4回程度繰り返すという方法である.
Greasing the groove(溝にグリスをすり込む)は,フィットネス・インストラクターのパベル・サッソーリン(Pavel Tsatsouline)がその著書[10]で紹介している技法で,同じエクササイズサイズを短時間に何度も繰り返すことで,スムーズに行えるようにする方法である.これを筋肉のみを対象とせず,動作や学習などの一般的な行動に対象を拡張し,低負荷でも同じエクササイズを繰り返すことで効果が上がる.短時間に繰り返すことで習慣化の促進を促すことは, ヘップの法則(Hebb's rule/Hebb's postulate/Hebbian learning:注7)を基礎としている.
(注7)1949年カナダの心理学者ドナルド・ヘッブ(Donald Hebb)により提唱された概念である.脳のシナプス可塑性に関する法則で,学習や記憶が生じるためには,脳のニューロン同士の接合部であるシナップスで連合強度が変化する必要があると考え,送り手と受け手のニューロンの両方が同時に興奮した場合に連合強化され,シナプス間の伝達効率が高められると言う考え[11].
(注8)アメリカの心理学者デビッド・プレマック(David Premack)により1959年に提唱されたプレマックの原理,あるいは,強化の相対性原理(the relativity theory of reinforcement)と呼ばれる原理[12]に基づく方法である. 強化の相対性原理とは,ある行動の頻度が増加することを「行動の強化」と言い,行動を強化する刺激を「強化子」と言う.何が強化子になるかは刺激の性質の種類によって予め決まっていない.強化するものも強化されるものも,どちらも特定の行動である.ある行動が,他の行動を強化するどうかは,行動の出現頻度によって相対的に決まる,ということから「相対性原理」という呼び方が付いた.出現頻度がより高い行動が,より低い行動を強化すると考えれば,強化子を見つけ出す必要はなく,行動の出現頻度の高低に着目すれば良いというアイデアに基づき,既存の習慣をライバル行動とし,新たに身につけたい習慣をターゲット行動としてこの2つを,行動の多少,きっかけの多少,ハードルの高低,ライバルの有無,褒美/罰の遅速という5特性で分析し,行動変革法を考える技法である[7].
(注9)ニッチ(niche)とは,ある生物が生態系内で占める環境であり生態的地位(ecological niche)と呼ばれる.認知的ニッチとは人特有の知性の場である.人特有の知性とは表象機能,社会性,言語などであり,その構築は自然選択ではなく,既にもち合わせている身体と,それによる環境の操作により達成される.つまり,人の知性は突然変異や自然淘汰により生き残ったものではなく,環境を自ら変えるという,より積極的な適応の結果であるという考え方[15].

参考文献・資料
[1] 室谷ひろゆき,今冬の豪雪対策の反省と次代のために…今後のとりくみ(雪害における県民被害を少しでも防ごう), 県議がつくった石川の財政第12号, https://muroyahiroyuki.web.fc2.com/zaisei/data/201802.pdf , 2023.1.8アクセス
[2] 石川県,平成30年度知事記者会見:平成30年度第2次3月補正予算について,記者会見の要旨-平成31年2月25日-, https://www.pref.ishikawa.lg.jp/chiji/kisya/h31_2_25/01.html , 2023.1.8アクセス
[3] 石井和克,超高齢社会は時間の物的価値から心的価値へのスイングが必要, コラム KAZU'S VIEW 2004年02月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=6 , 2023.1.8アクセス
[4] hatena,「水は低きに流れる」は本当に誤用されているのだろうか?Hatelabo: AnonymousDiary(2022), https://anond.hatelabo.jp/20220921195610 ,2023.1.8アクセス
[5] 新村 出編,広辞苑第五版,岩波書店(1999)
[6] 石井和克,6回目のうさぎ年を迎えた新春に思うこと,コラム KAZU'S VIEW2011年01月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=89 , 2023.1.8アクセス
[7] 読書猿, 独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法, ダイヤモンド社 (2020)
[8] 知恵の森,中断したことに関する効果(ツァイガルニク効果・オヴシアンキーナー効果),  https://forestofwisdom.net/effects-of-unfinished/ , 2023.1.8アクセス
[9] F. Cirillo, The pomodoro technique, Creative Commons(2009)
[10] P. Tsatsouline, Power to the People!: Russian Strength Training Secrets for Every American, Dragon Door Pubn; Illustrated版 (1999)
[11]高橋直矢,池谷裕二,松木則夫,ヘブ則,
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%98%E3%83%96%E5%89%87 , 2023.1.28アクセス
[12] D. Premack, Toward empirical behavior laws: I. Positive reinforcement. Psych Rev., 66, 219-233(1959)
[13] 石井和克,壬寅年の締めくくり−癸卯(ミズノト ウ)年に向けて−,コラム KAZU'S VIEW2022年12月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=233 , 2023.1.28アクセス
[14] 石井和克,体と心から自分を見つめ直す,コラム KAZU'S VIEW2022年10月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=231 , 2023.1.28アクセス
[15] DIGITALIOコトバンク,最新心理学事典「認知的ニッチ構築」の解説,
https://kotobank.jp/word/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%9A%84%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%81%E6%A7%8B%E7%AF%89-2099850#: , 2023.1.28アクセス

令和5年1月
以上

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