コラム KAZU'S VIEW

2023年02月

自分を変えて環境を変えられるか−ポモドーロ・テクニックの実践と経過−


先月のコラム[1]で新たな行動を身につける具体的な方法として, ポモドーロ・テクニックを紹介した.これは25分の作業と5分の短い休憩で作業時間と休憩時間を分割し,この作業と休憩のセットである「ポモドーロ」を4回程度繰り返すと言うものであった.早速,今月初めから,この方法をスポーツジムでのプログラム改変に適用する実験に取りかかった.今回は,その経緯と中間結果を踏まえて,自己変革に対するこの方法の活用法に関する所見を検討してみることにした.

適用を試みたプログラムはウオームアップを目的とした,1周100メートルのトラックを使ったプログラムで[2],昨年末までに100周を維持できる状態であった.これを90分以内に安定的に維持することを目標にプログラムの改変に取り組んだ.最初は,25分間ランニングした後で,休憩として5分間のウオーキングを行うポロドームを組んで3回繰り返すプログラムを実践し,1週間ほど続けた.しかし,25分間の周回回数がなかなか増加しなかった.そこで,5分間を完全休憩時間としたものに変更した.その結果,25分間での周回回数が徐々ではあるが,増加し始めた.しかし,このプログラムを2週間ほど継続した段階で,膝痛が激しくなった.これまでも膝痛を何回か経験していたが,数日で収まっていた.しかし,今回は1週間を超えて継続しており,プログラム実践をその間,中止をせざるを得ない結果となった.この原因が,体力と疲労による自らの肉体の限界なのか,今回のプログラムの改変,または,その内容なのか,もう少し時間をかけて実験を続けたい.昨年5月から始めた新たな行動を身につける試みの1つは,年末,年始の除雪作業での腰痛防止に顕著な効果をもたらした一方で,ズボンの腰回りが10センチ以上細くなったために,これまでのズボンがはけなくなり,ズボンの新調というコスト増加問題も出てきた.

ポモドーロ・テクニック等に出てくる「同じ作業を繰り返す」ことで生じる効果の代表的なものとして,経験曲線効果(習熟/学習効果)[3],[4]とよばれるものがある. 経験曲線効果とは,一般に個人や組織が特定の課題や作業について経験を蓄積するにつれて, 時間,コストや不良率の低下などの面でより効率的にその課題をこなせるようになることを指す.この曲線は,縦軸に単位所要時間,単位コストや不良率を取り,横軸に作業の繰り返し回数を取った座標上で指数関数的な減少曲線を描く.すなわち,繰り返しの初期段階ではその低減率は大きいが,やがて一定の値に近づいていく形になる.この時,繰り返しの初期段階での縦軸の値と,漸近値の差が効果の大きさとなる.一方,この一定値を超えて時間,コストや不良率を低減するためには,新たな作業方法を導入しなければならない.このような行動を改善活動では,現状打破[5]と呼ぶことがある.これに対し,経験曲線効果を目的に行う活動が現状維持となる.現状打破は,無知・未知の世界への挑戦を意味し,失敗のリスクが現状維持に比べると高くなる.従って,個人や組織は,この現状打破に立ち向かうことを躊躇する.この躊躇に対し,現状維持活動の過程で培った自信と,経験曲線効果によって生み出される余裕が後押しをする.言い換えれば,経験曲線効果は,個人や組織が次のステップアップに向けての原資となり得る.この投資資源を単に浪費するか,積極的に投資するかで,マンネリと成長の違いが出てくる.そして,この成長への動機付けは,ありたい姿としての個人や組織の夢が明確であるほど強いものとなる[6].個人や組織の改善活動は,以上の現状維持と現状打破を両輪とする継続的な歩みとなる[7].ところで,組織を個人を取り巻く環境と捉えると,個人と組織間の相互作用が存在する.この相互作用に着目し,生物の進化過程を捉える認知的ニッチ構築[1]というモデルを改善活動に適用してみる.このモデルでは,人は突然変異や自然淘汰で生き残ったのではなく,自らの身体とこれを駆使して環境を操作することで積極的に環境に適応して来た結果として,現在の人類があるとしている.このモデルは,「自分を変えて環境(組織)を変える.」が,持続可能な社会の発展を形成する1つのアプローチになり得ることを示唆している.

ロシアのウクライナ侵攻が世界を揺るがして1年が経過した.戦争の世紀と言われた20世紀がまだ続くのか,という嘆きとも諦めともつかない思いの中であがいている自分に問いかけつつ,自らの現状打破の実践を試みている.退職して丸一年目が間もなくやってくる.地縁組織としての町会の活動を通じて新しい人間関係が出来つつある.その中で,新たな自分を見いだす場面もあるが,自分の変化が見いだせない.10年後のありたい姿が描き切れていないのであろう.町会活動を通じた2年間のなりたい姿である,コロナ前の町会事業の再開と活動のデジタル化は,ほぼ達成できたように思う(注1).しかし,今後の自己改革のための現状打破のなりたい姿と,10年後のありたい姿を描き出すために,どのような環境への働きかけを,どのように進めて行くのかを残る1ヶ月で検討する必要がある.そのためにスポーツジムのプログラム改変問題についての結論付けをしたい.

(注1)コロナ前の町会活動の主な事業としては,4大町会対抗競技会(令和4年度は2大会で優勝),夏・冬祭りおよび春秋の町会内一斉美化清掃がある.これらの諸事業の内,唯一実行出来なかったのは春の一斉美化清掃のみであった.それ以外は,規模縮小等はあったものの感染者を出さずに実施できた.もう1つの町会活動のデジタル化は,1年目の狙いとして,コロナ禍での町会事業の中止や町会内の情報交換の中断を回避するための手段としてスマホやパソコンを通じて非接触の情報交換の場を,既存の情報サービスインフラを活用して構築することに狙いを定めた.この段階での課題は,このサービスインフラへの町会メンバーの登録促進であった.メンバーの高齢化が進む中で,新たなコミュニケーション環境への不安や懐疑心を払拭するために,ゴミ問題やお祝い事などの身近な出来事を頻繁にネットで流した.その結果,当初30名程度の登録者数が,2年目には130名を超す人数まで増加し,町会全世帯の6割を超えるまでになった.一方,この町会は,令和8年に設立50周年の節目を迎える.これまでの50年の歴史をデジタル化し,次の100年への展開に向けての資産化をはかるために様々な資料のクラウド化を図り,世代間での情報共有を図ろうとしている.また,町会内にある各種会議をデジタル化,リモート化するために掲示板機能やテレビ会議システムの導入と試行を着実に積み重ねて来た.更に,災害時の安否確認機能をデジタル化するための試みとして,民生委員と町会防災会と協働してその体制整備を進めている.その結果,徐々にメンバーからの情報発信の回数が増えてきている.
   
参考文献・資料
[1] 石井和克,壬卯の年の初夢,コラム KAZU'S VIEW2022年01月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=234 , 2023.2.18アクセス
[2] 石井和克,体と心から自分を見つめ直す,コラム KAZU'S VIEW2022年10月,  https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=231 , 2023.2.18アクセス
[3] フリー百科事典(ウィキペディア(Wikipedia)), 経験曲線効果, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E9%A8%93%E6%9B%B2%E7%B7%9A%E5%8A%B9%E6%9E%9C#%E5%87%BA%E5%85%B8 , 2023.2.18アクセス
[4] J.Y. Mohamad, Learning curves: theory, models, and applications, CRC Press(2011)
[5] J.M.ジュラン著,石川馨監修,日本化薬衞,現状打破の経営哲学,日科技連出版社(1969)
[6] 石井和克,技術者基礎としての管理技術教育〜キャリアデザインと管理技術の融合をめざして〜,Vol.61,No.5,pp.29ー35,IEレビュー(2020)
[7] 平木秀作,市村隆哉,片山博,石井和克,加茂紀子子,国際協力による自動車部品相互補完システム,渓水社(2003)
令和5年2月
以上

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