コラム KAZU'S VIEW

2023年04月

地縁団体の運営に関する一考察

  
地元町会の町会長を引き受けてこの3月で2年間の任期を満了することになっていた.しかし,もう1年の会長任期継続が総会で議決され,3年目の会長を務めることとなった.継続の主な理由は,コロナ禍で町会内の活動停止,特にコミュニケーションの断絶に対する1つの方策として町会運営に導入したデジタル化体制[1]の定着がある.一方, この町会は令和8年に町会設立50周年の節目を迎える.この町会をゼロから立ち上げた第一世代が,75歳を超え,後期高齢者となっても町会の主要な役割を担い続けている.この現状から,高齢化に伴う町会運営の世代交代の体制整備への取り組みは, 喫緊の課題であると総会の議論を通じて自己認識した.本コラムでは,この2年間の経験を踏まえ,自らに課せ得られた課題に対する取り組み方を考察し,この1年の地縁団体運営の課題と解決方向を整理してみようと思う.

地縁団体とは,地方自治法第260条の2第1項において,「町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」,いわゆる町会・自治会などの地縁による団体のことを指す[2].地縁団体の中で認可地縁団体制度に基づき,一定の手続きを行うことで地縁団体が法人格を取得でき,認定地縁団体として規約に定めた目的の範囲内で権利義務の主体となることができる.この制度によって認定地縁団体は,不動産等の保有をはじめ地域的な共同活動を円滑に行うために認可を受けることができるようになっている. この地縁団体という組織の歴史を遡ると1000年前になるという.結(ユイ)や惣(ソウ)などと呼ばれ,領主などの統治者と農民などの被統治者の力関係の中で被統治者を代表する統治者との交渉窓口,ならびに被統治者間の互助機能を有していたとされる(注1).その後,統治者は国家となり,地縁団体はその枠組みの中に取り込まれて機能するようになった.第二次世界大戦を経て,民主国家の下で復活することになり,行政機関との一定の距離感をとりつつ,小学校区を基本とするコミュニティ(community)(注2)としての機能をもつ組織となった. 渡邉[6]が,全国の市町村にある町会・自治会の主な自主的活動として上げている内容は,以下の4つである.
)蛭箸筝鯆未魎泙狠楼茲琉汰,災害時の対応,
△瓦濬言兔蠅隆浜を含む環境美化,
お祭り,イベント等の開催を含む文化・レクリエーション活動,
せ劼匹皺颪簣型猷颪魎泙猜〇祿萋.
上記自治会の自主的な活動に加え,行政への協力,さらには,広報等の配付,各委員の推薦,募金等などといった協力も必要であることから,「行政の下請け」といったイメージが強くなっているとの指摘もある.また,同調査の中で甲府市の自治会会長へのアンケートでの自治会活動の問題点としては, 以下が上げられている.
*役員のなり手が少ない,
*自治会全体が高齢化して,活動に支障が出ている,
*行事,活動等の参加者が少ない,
*役員の負担が大きい,
*行政からの依頼や配布物が多い,
*高齢化を理由に役員を拒否される,
*高齢者が勝手に自治会住民の個人情報を出したり,暴言を吐いて運営を混乱させたり,助成金を会計報告せずに小遣い代わりにしている.
高齢化が地縁団体活動に様々な課題を生じさせているが, 自治会は日本特有のシステムで,これまでの街づくりに一定の成果を出してきた社会資源であり,また,行政とのパイプ役,行政サービスの一端を担い,行政の効率性も図って来たことから,今後の自治会(地縁団体)を社会資源としてどのように再設計するのか,という渡邊の問題指摘は共感が持てる.

地縁団体を社会資源として捉える考え方は, ソーシャル・キャピタル(Social Overhead Capital/ Social Capital)として経済学や社会科学の分野で社会的共通資本(注3)や社会資本という用語で扱われている(注4).立木[7]は, 阪神・淡路大震災からの復興のための生活再建というテーマを掲げ, 被災者や支援者とのワークショップを通じ,協働と参画の活動を直接に規定するのは自律・連帯といった市民的価値規範ではあるが,これらの価値規範はさらに地域への愛着・関心・つながりといった先行する要因によって影響されることを明らかにした.これに基づき, このような自律・連帯の市民的価値規範や,この価値規範に基づく地域活動の実践をささえる資源として,地域への愛着や関心を契機として生まれる社会的なつながりや相互の信頼感の重要性に注目し,「ソーシャル・キャピタル」をまちづくりのキーワードとした.そして,ソーシャル・キャピタルを,「あまり面識のない他人同士の間にも,共通の目標に向けて協調行動を促すことにより,社会の効率を高め,成長や開発,またその持続にとって有用に働く社会関係上の資源」と定義した.さらに,このソーシャル・キャピタルは,以下の5つの具体的な方法で強化できるとした.
1)住民参加の多様性,
2)コミュニティイベント,
3)コミュニティガバナンス(注5),
4)コミュニティへの関心と愛着,
5) 挨拶.
そして,その強化の成果として「ソーシャル・キャピタルの豊かさ」を,
1)ゆるやかな人のつながりができる,
2)互いに思いやり,信頼,親切,おせっかいをやく,
3)お互い助け合い,友だちになる.
といったことが生じていることで評価できるとした.

地縁団体を社会資源と捉える渡邊の調査結果に基づく問題提示や,立木の生活再建を地域への愛着・関心・つながりを基盤とする自律・連帯といった市民的価値規範を通じて行おうとする試みは,自身が2年間,町会と向き合った経験と多くの点で共感性を確認できる.しかし,町会活動のデジタル化に対する高齢者の反応については,佐藤ら[11]の指摘するデジタル・デイバイドに対し2つの反応を確認できた.1つは,指摘の通りの拒否反応であり,もう1つは新たな環境変化への対応学習反応であった.町会役員は輪番制で選出されるため,75歳以上が19.1%を占める町会では,役員会メンバーの2割程度が75歳以上になる.これまでの2年間,毎月開催の役員会をテレビ会議形式で行ってきた.初めての遠隔会議システムのソフト操作に,最初の数回は戸惑っていた高齢者役員が,数ヶ月後にはしっかり使いこなしていた.年度末の最終役員会で感想を聞いたところ,新しいことに挑戦することの楽しさや操作方法を学ぶ過程で若手役員と交流できたことの喜びを熱く語っている彼らの姿に接し,感動を覚えた.肉体的な衰えは,回復の可能性は低いが,精神的・知的能力回復力は年齢に依存しないことが脳科学の分野で指摘されている.高齢化が保守化を意味すると共に新たな経験への挑戦という革新性の両面を持ち合わせていることを実感した.高齢者のこの革新性をデジタル化という場を使って,世代間共創を創り出す仕掛けが社会資源としての地縁団体の再設計ではないか. ソーシャル・キャピタルの要素である規範は町会会則・細則になろう.ネットワークは回覧版のようなアナログ的「向こう3軒両隣」を基調とする対面対話とデジタル的なSNSなどの情報ネットワークによる対話の組み合わせになろう.そして信頼形成は情報開示と双方向コミュニケーションの徹底になろう.この時,情報開示は個人情報管理との調整が,双方向コミュニケーションには相互啓発能力の向上が必要となる.国家や市場とは異なる市民的公共性がソーシャル・キャピタルの創出に大きな役割を演じるとの指摘[11]がある.また,国家,市場,コミュニティという三つの支柱のうち,今は失われつつある三つ目のコミュニティの再生に世界は力を費やす時期である[14]とも言われる.日本独自の地縁団体である町会という社会資源が,世界価値を生み出すための町会のありたい姿へのロードマップを1年かけて町会の皆さんと協働して描いてみたい.

(注1)町会,自治会等は協会(Association)を意味し,その起源は1000年前にさかのぼる. 最初は結(ユイ)と呼ばれる集団で,農作業を互いに助け合っていた. 結の役割は,構成員が領主と有利な協定を交渉するのを助けるように発展し,その後,惣(ソウ) と呼ばれるようになった.さらに,町が形成され,安土桃山から江戸時代にかけて政府が徴税と兵役のために使用した地方行政単位になり,やがて町内会と自治会が公式化され,第二次世界大戦に至る軍事政権によって使用された. また,日常生活においても重要な役割を果たし,冠婚葬祭その他多くの儀式や年中行事の社会的基盤として機能していた. ポツダム宣言後に再び認められたが,地方政府との関係は弱まった.現在,都市部の町内会は,5 世帯から 10 世帯を含むいくつかの組または班から構成されている. 各小学校区内にはいくつかの町内会があり,それらは連合町内会または連合自治会に組織されるのが一般的で, 通常,連合町内会は,地元の小学校区がカバーする面積に相当する.通常,地元の小学校は,市区町村が学校区内の住民のために指定した緊急避難場所になっており,これらの理由から,日本人は一般的に自分たちのコミュニティを自分たちの小学校区と認識している. 町会は,年中行事,高齢者や子供のための地域ケア,地域防災 (防災) 災害軽減,地域防災 (防犯) など,ほとんどの地域活動を管理している[3].なお,アメリカでは,町会等は, Neighborhood associationsと呼ばれ,その定義は地元の住宅地の生活の質や資産価値を向上させることを目的とする非政府集団を意味し,広い意味では,不動産法の機能として居住者に義務的なメンバーシップを課す住宅所有者協会から,テナント協会,犯罪監視グループ,および住民の間で自発的なメンバーシップを含む特別な関心のある近隣連合とさている[4].
(注2)日本での外来語としてのコミュニティは,経済成長が都市の生活環境や人間関係の荒廃を招いたとする認識の広まった1970(昭和45)年ごろ,その克服策として官民の指導的部門が一斉にコミュニティの創設を提唱してから一躍脚光を浴びることとなった.説かれている内容は,小学校区程度の近隣の範囲ごとに,内部の住民の間に樹立されるべき市民的連帯性,つまり自主性や個性の確立を伴った連帯性と必要関連施設の整備等の意味を持つ.この提唱に呼応して多くの自治体がコミュニティ政策に取り組んでいる.しかし,この場合も意味の多義性が影響し,その理解が個々に異なるところから,具体的政策にもかなりの相違が現れている.また,市民的連帯というとき,延長として町内会の否定が意図されていたが,実際にはこの政策の推進にあたり町内会に大幅に依存している場合も少なくない[5].
(注3)社会的共通資本(Social Common Capital)とは,経済学者・宇沢弘文(1928−2014年)の提唱した概念で,「ゆたかな経済生活を営み,すぐれた文化を展開し,人間的に魅力ある社会を持続的,安定的に維持することを可能にするような社会的装置」のことである. 社会的共通資本には,大気,海洋,森林,河川,水,土壌などの自然環境,道路,交通機関,上下水道,電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー,教育,医療,司法,金融,文化などの制度資本という3つのカテゴリーが含まれる[8],[9].
(注4)ソーシャル・キャピタルの明確な定義について一般的な合意が存在しているわけではないが,議論に大きな影響を与えているアメリカの政治学者,ロバート・パットナムは,次のように明記している.人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる,「信頼」,「互酬性の規範」,「ネットワーク」といった社会組織の特徴[10]. ソーシャル・キャピタルと社会的共通資本の関係について佐藤ら[11,12]によれば, ソーシャル・キャピタルと呼ばれるものは,社会的共通資本というハードを効率的に使うための人間関係的なソフトであるとしている.
(注5)コミュニティ・ガバナンス (Community Governance) の定義には様々なものがあるとされる. 「多様な担い手が相互にネットワークを形成し,連絡協力し合いながら,それぞれの潜在能力を発揮していくという姿」や, 「コミュニティ内の成員による意思決定という形態」などを中田[13]は上げているが,これは構成員の認識の違いから出ている差異であると考えられる.要約すると,地域コミュニティにおける民主的なルールづくりに向けた運動のことになる.

参考文献・資料
[1] 石井和克, 自分を変えて環境を変えられるか−ポモドーロ・テクニックの実践と経過−,コラム KAZU'S VIEW2023年2月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=235 , 2023.4.18アクセス
[2] 大阪市, 認可地縁団体制度, https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000541219.html , 2023.4.18アクセス
[3]  A.Matsukawaa, S. Tatsuki, Crime prevention through community empowerment: An empirical study of social capital in Kyoto, Japan, International Journal of Law, Crime and Justice 54, 89–101 (2018)
[4] Martin Ruef and Seok-Woo Kwon, Neighborhood Associations and Social Capital, Neighborhood Associations and Social Capital, pp.1-31, Neighborhood Associations and Social Capital (2016), https://www.researchgate.net/publication/303819190_Neighborhood_Associations_and_Social_Capital , 2023.4.18アクセス
[5] 中村八朗, コミュニティ, コトバンク(日本大百科全書(ニッポニカ)), https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3-3469 , 2023.4.18アクセス
[6] 渡邉たま緒,活動の現状からみる今後の自治会のあり方とは, (公財)山梨総合研究所, Vol.261-2, https://www.yafo.or.jp/2020/04/30/12383/#:~:text , 2023.4.28アクセス
[7] 立木茂雄,ソーシャルキャピタルと地域づくり(特集 ソーシャルキャピタルと地域づくり), 都市政策,神戸都市問題研究所, (127) 4 - 19, Apr.( 2007)
[8]コミュニティ(community)] HARCH INC., 社会的共通資本とは・意味,IDEAS FOR GOOD, https://ideasforgood.jp/glossary/social-common-capital/ , 2023.4.28アクセス
[9] 佐々木実,資本主義と闘った男-宇沢弘文と経済学の世界-,講談社(2019)
[10] Osaka School of International Public Policy, ソーシャル・キャピタルとは?ソーシャル・キャピタル・アーカイブ, https://www.jipps.org/scarchive/sc/index.html , 2023.4.28アクセス
[11] 佐藤誠, 社会資本とソーシャル・キャピタル, 立命館国際研究16-1,立命館国際研究 16-1,June , pp.1-30,( 2003)
[12] 佐藤仁著, アジ研ワールド・トレンド / 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究支援部編,共有資源管理と「縦の」社会関係資本,第7巻,第4編, pp.8〜11(2001)
[13] 中田知生,コミュニティ・ガバナンスとは何か―コミュニティ研究における社会関係資本―,北星学園大学社会福祉学部北星論集第52号,pp.93-101(2015), https://core.ac.uk/download/pdf/228568187.pdf , 2023.4.28アクセス
[14] ラグラム・ラジャン著,月谷真紀訳,齊藤誠解説,第三の支柱―コミュニティ再生の経済学―,みすず書房 (2021)

 令和5年4月
以上

先頭へ