コラム KAZU'S VIEW

2023年08月

あの世とこの世の振り子を思い描く酷暑の夏が過ぎてゆく

 梅雨明けしたと思ったら,連日の猛暑で熱中症警戒アラート(注1)が連日発令されている日々が続いている.昨年に続き,孫たちと一緒に72回目の誕生日を無事迎えられたことをうれしく思う.お盆は,孫たちとプール,水族館,プレイパークなどに出かけて見たが,肌に突き刺さるような日光を体感した.そして,町会のコロナ明けの2回目夏まつりが,コロナ感染と熱中症の2つの対策を講じながら,コロナ前の賑わい復活を感じるものとなった.そんな時を過ごす中で,TVで映画版「ラーゲリより愛を込めて」という放送を視聴し,思わず涙が流れた.そんな自分の心の動きを,分析して見た.

ラーゲリより愛を込めて[4]という映画の原作は,辺見じゅんのノンフィクション「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」で,その映画化は,監督 瀬々敬久(ゼゼ タカヒサ),主演 二宮和也(ニノミヤ カズナリ)による作品である.そのストーリーの概略は,第二次世界大戦後,12年を経てシベリアに抑留され,強制収容所(ラーゲリ:(注3))内でなくなった山本幡男(ヤマモト ハタオ)の遺書が,彼を慕う収容所仲間達が遺書の文面を,分担して暗記して持ち出すという奇抜な方法で,厳しいソ連軍監視をかいくぐって遺族に届けられた六通の遺書がメインテーマとなっている作品と言える.その遺書の宛名は,4人の子供達へ,妻へ,そして母へ,であった.その文面の中で最も印象深かったのは,子供達へであった.未来を託す希望が子供達に向けての励ましのメッセージとしてつづられていた.自分を持ち,生き抜く力を習得して欲しいという親心を感じた.シベリアに抑留された日本人は約57.5万人とも言われ,その1割の約5.8万人の方が亡くなったとされる[6].多くの方々は,山本と同じ気持ちを持ったまま,祖国の土を踏めなかったという悲しい事実を改めて受け止めた.

山本幡男がラーゲリの医者から癌と診断され,余命宣告をされてから,それまで彼が励まし続けたラーゲリの仲間から遺書を書くことを勧められ,書き始める.自らの人生を顧みて,残された自らの命の灯火を使って,残してゆく愛する人々に伝えようとあがく姿を見て,共感を覚える.ただ,愛する家族と引き離され,終戦を迎えても母国に帰れず,辺境の地に強制的に追いやられ,労働を強いられた自分の境遇についての思いを語りたくはなかったのだろうか,という疑問は生じる.死を覚悟すれば,生きるための「苦[7],[8]」からは解放されるということか.「死」が人間にとって無知の世界だからこそ,これを直感した人間に与えられた貴重な機会(トキ)なのか.

改めて,自分の人生を振り返り,残された時間をどのように使うのか,を考えることに自身の人生の総括を行い,その人生に感謝し,涙するのかもしれない.生きることは,死ぬことを考える事なのかもしれない.人は永遠の命を夢見る.しかし,死があることが生きることを輝かさせるのかもしれないと最近考えるようになってきた.若さの余韻で未来を思い描く自分がいる一方で,残り少ない人生の時間をどう使うかを思い悩む自分もいる.生と死の狭間を揺れ動く振り子を思い出した.熱い夏が過ぎて行く.虫の声を耳にしつつ,祭りの後の寂しさと共に.

(注1)熱中症警戒アラートは,熱中症の危険性が極めて高くなることが予測された場合に気象庁と環境省が共同で発表する情報[1],[2]で, 暑さ指数(注2)が33°C以上になると発令される.2020年7月1日に全国に先駆けて関東甲信地方を対象に運用していたが,2021年4月28日より,全国で運用を開始した.2024年より,さらに強い警戒を呼び掛ける熱中症特別警戒アラートが新設される予定である[3].
(注2)暑さ指数(湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature(WBGT))は,熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標で,単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが,その値は気温とは異なる. 暑さ指数は,人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で,人体の熱収支に与える影響の大きい
ー湘,
日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境,
5げ
の3つを取り入れた指標[2].
(注3)ラーゲリとは,ソビエト連邦における強制収容所を指すが,本来はキャンプを意味するロシア語であり,夏休みの子供キャンプ,合宿,宿泊施設も意味する. 党により反革命罪等の体制に対する罪を犯したと判断された政治犯や重罪を犯した者,また敵国の捕虜等を主に収容し,恐怖や猜疑心,疲労によって支配された過酷な環境下に置くことにより,体制への恭順な態度を導き出す手段として使用された.収容者は無償の労働力としても利用された.特にスターリン体制下(1929〜53年)では家族ごと収容されることが多かった[5].

参考文献・資料
[1] 環境省,熱中症予防情報サイト, https://www.wbgt.env.go.jp/ ,2023.8.25アクセス
[2] 気象庁, 熱中症警戒アラート, https://www.jma.go.jp/bosai/information/heat.html ,
2023.8.25アクセス
[3] フリー百科事典(ウィキペディア(Wikipedia)), 熱中症警戒アラート,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E4%B8%AD%E7%97%87%E8%AD%A6%E6%88%92%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%88 ,2023.8.25アクセス
[4] 東宝, ラーゲリより愛を込めて公式サイト, https://lageri-movie.jp/ ,2023.8.25ア
クセス 
[5]フリー百科事典(ウィキペディア(Wikipedia)),ラーゲリ, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%AA , 2023.8.26アクセス
[6] フリー百科事典(ウィキペディア(Wikipedia)), シベリア抑留, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%99%E3%83%AA%E3%82%A2%E6%8A%91%E7%95%99  ,2023.8.26アクセス
[7] アルボムッレ・スマナサーラ, 苦の見方-「生命の法則」を理解し「苦しみ」を乗り越える-,サンガ(2015)
[8] 石井和克, 体と心から自分を見つめ直す,コラム KAZU'S VIEW, 2022年10月のコラム, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=231 , 2023.8.28アクセス
 令和5年8月
以上

先頭へ