コラム KAZU'S VIEW

2023年12月

年男だった癸卯年を「認知的ニッチ構築」仮説で振返る


  癸卯(ミズノト ウ)の年が間もなく甲辰(キノエ タツ)に代わろうとしている.卯年は何かを開始するのに縁起がよく,希望があふれ,景気が回復し,好転するよい年になると言われる[1],[2].また,今年は年男の機会でもあったため,この1年間の時間経過を経て,自分自身にどのような変化があったのか,についてこのコラムの軌跡を手がかりに考えてみることにした.

 1月のコラム[3]で本コラムに過去のコラムが引用される回数が増えたという認識に基づき,この現象が「認知的ニッチ構築」という人間特有の知性の獲得を説明する仮説,すなわち, 環境を自ら変えるという,より積極的な適応の結果であることを検証したいと記述していた.令和に入ってから,このコラムで引用する過去のコラムの件数は,2019(令和元)年が3件,その後1件,10件,7件で,2023(令和5)年は11月までに14件になっていた.急増したのは2021(令和3)年の10件からで,これは町会長を務め始めた年になる.大学中心の生活から,地縁組織中心の生活へと自らの生活環境を大きく変えた事が背景にある.コロナ禍での町会活動維持のために,新たなコミュニケーション環境の導入・整備[4],[5]や高齢化に伴う世代交代体制の整備などを通じた,多様な価値観や行動様式を持つ初対面の実生活者との日々の問題解決活動の実践の日々は,新しい経験の習得とこれまでのビジネスマネジメント関連の専門知識の応用という「学習の場」を提供してくれた.初めて経験した町会業務をマニュアル化,資料化し,町会内デジタルネットワークに町会内共有知識として蓄積する試みを地道に積み上げて来たが,少しづつ町会内にその反応が出てきている.例えば,提示されたマニュアルに対する改善提案がネットワークの掲示板に投稿されたり,町会イベントの反省会の掲示板に実行委員以外の町会住民の視点からの問題提起の書き込み等が見られるようになった.また,町会史上初めてとなる女性防災士の誕生も,「自ら考え,実践する町会創り」のスローガンの実践と考えられる.4年後の2026(令和8)年に町会創立50周年を迎える.そのための記念事業実行委員会を今年設置した.町会50年の遺産継承と今後の新たな町会の価値創りへの戦略策定への機会が準備されている.そのためにも,記念事業実行委員会の委員長としてどのような企画を準備していくかという課題に対し,町会メンバーの知恵と工夫をどのように収集し,企画・実施へと繋げていくかが,新たな学習の場となる.

  今年のNHK大河ドラマは,「どうする家康」で,古沢良太(コサワ リョウタ)脚本のオリジナル作品である[9].主人公は, 松本 潤(マツモト ジュン)が演じる徳川家康(松平竹千代/元信/元康)である.ドラマのストーリーとしては,女優陣のインパクトが強く,家康の存在感が薄い印象を受けた.日本3大悪女(注1)とされる有村架純(アリムラ カスミ)が演じる築山殿(瀬名)や北川景子(キタガワ ケイコ)が演じる淀殿(茶々)の扱いもこの脚本の特徴として表われている.このドラマで最も印象に残っているのは,画面最初に出てくる兎のアニメーションと劇中に登場する家康手彫りの兎の木彫り像およびそれにまつわる台詞であった. 竹千代(家康の幼名)は,1542(天文11;壬寅(ミズノエ トラ))年12月26日の寅の刻(午前4時頃)の生まれであることが通説である.しかし,家康の生年が翌年の癸卯に当たると言う説もある(注2).この説が背景となり,放送の機会が癸卯の年でもあることから,このような演出がされたのであろう. 卯年生まれの男性は,「その優しく穏やかな見た目からは想像もできないほどに根気強く,地道にコツコツと物事を成し遂げていく.そして,その努力や結果を他人にひけらかすことが無い.とても控えめなのに,いつの間にか大成功しているタイプである.やや人見知りなため,なかなか心を開かないが,一度打ち解けるととても心根の優しい,誠実な人である.」とされる[10].この特性は,松本 潤の演技を通じてよく伝わってきた.日本史の近世[11],[12]に位置づけられる江戸時代を作り上げた人物であり,それが故に神格化された人物像の実態が近年徐々に明らかにされてきている[8].世界史で見れば大航海時代から産業革命期という激動の17〜19世紀の中で,天下太平の治世を画した人物像は,日本におけるルネサンス期と位置づけられる中世最後の戦国時代[13]を終焉させたという意味でも国際的価値創造の実践者としての魅力は大きい.

  まずは,6回目の年男として無事に生き延びたことに感謝したい.子供の頃に,親にむかって卯年生まれは嫌いなので,寅年生まれに替えて欲しいと良く言っていたと,今は無き両親から聞かされた事があったことを懐かしく思い出す.家康と同じ夢を抱いていたのかもしれない.そんな点で家康を身近に感じる.彼は75歳まで生き延びたとされる.その要因として健康管理法が取り沙汰されている.竹千代の時代から様々な逆境という環境を学習の場として「戦無(イクサナ)き世の創造」の夢を追い続けた人物だったのであろう.その意味で,家康も「認知的ニッチ構築」仮説の実践者ではなかったか.480年前の癸卯年生まれの人物を辛卯(カノト ウ)年生まれの自身と重ねて,多少の自信を抱きつつ,心と体と会話して健やかさを維持し, 甲辰(キノエ タツ)に歩みを進めたい.

(注1)日本の3大悪女は一般的には,源 頼朝の正妻であった北条政子(ホウジョウ マサコ), 足利義政の正妻の日野富子(ヒノ トミコ)と豊臣秀吉の側室の淀殿(ヨド ドノ)とされている[6].一方, 築山殿にも悪女説[7]があり,淀殿の代わりに3大悪女に上がることがある.
(注2)家康の将軍任命に合わせて陰陽頭(オンミョウノカミ)の土御門(ツチミカド)に無病息災・延命祈願を行わせた天曹地府祭(テンソウチフサイ)の場で出された都状(願文)には, 「61歳癸卯年」という記載が見られる.通説の通りであれば,家康はこの時62歳で,生年の干支は「壬寅」となる.しかし,この通説による年齢と生年は,都状から10年ほど経た享年に基づいたもので,単純に時期に注目するだけなら,信頼性は都状に記載された年齢の方が高いという指摘もある[8].

参考文献・資料
[1] QUO, 2023年は「癸卯(みずのとう)」どんな年になる?https://www.quocard.com/column/article/eto2023/ , 2023.12.28アクセス
[2] 日本郵便株式会社, 2023年の干支「癸卯(みずのとう)」にはどんな意味がある?https://print.shop.post.japanpost.jp/nenga/feature/article_67 , 2023.12.28アクセス
[3] 石井和克,壬卯の年の初夢,コラム KAZU'S VIEW 2023年1月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=234 , 2023.12.28アクセス
[4] 石井和克,自分を変えて環境を変えられるか−ポモドーロ・テクニックの実践と経過−,コラム KAZU'S VIEW 2023年02月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=235 , 2023.12.28アクセス
[5] 石井和克,地縁団体の運営に関する一考察,コラム KAZU'S VIEW 2023年04月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=237 , 2023.12.28アクセス
[6] あやみ,日本三大悪女:北条政子・日野富子・淀殿が「悪女」と呼ばれたのはなぜか?TABIZINE, https://tabizine.jp/article/521887/ , 2023.12.28アクセス
[7] NHK,ゆるっと解説 大河と歴史の裏話「瀬名は,悪女ではなかった!?」, コラム時代考証や制作にまつわる裏話などを掲載, https://www.nhk.or.jp/ieyasu/column/21.html , 2023.12.28アクセス
[8] 柴 裕之, 青年家康-松平元康の実像-, KADOKAWA(2022)
[9] NHK,大河ドラマ-どうする家康-, https://www.nhk.or.jp/ieyasu/ , 2023.12.28アクセス
[10] テレシスネットワーク株式会社,卯年(うさぎどし)の意味|卯年生まれの性格・年齢・特徴・相性, https://woman.mynavi.jp/article/220613-3/2/#anchor-2 , 2023.12.28アクセス
[11] 立正大学図書館品川学術情報課,日本史,りぶたま,
https://www.ris.ac.jp/library/learn/cb6q79000000acyc-att/nihonshi.pdf , 2023.12.28アクセス
[12] 九州歴史資料館,時代区分,九州歴史資料館展示開設シート15, https://kyureki.jp/wp-content/uploads/2021/03/publish_commentary_kaisetu15.pdf , 2023.12.28アクセス
[13] 源 了圓,義理と人情: 日本的心情の一考察,中央公論新社(2013)
令和5年12月
以上

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