コラム KAZU'S VIEW
2025年01月
乙巳の年の事始め-甲辰の年の負のループからの脱却を目指して-
甲辰（キノエ タツ）の年の悪夢の1つであった年末でのインフル感染の後遺症として,蓄膿症による頭痛と不快感,新型コロナの後遺症の咳が, 乙巳（キノト ミ）の年（注1）に入っても続いた.正月三が日は,恒例の地元神社の元旦祭に出た以外は,外出せず年末から来ていた孫たちとも共有する時間が持てずにいた.鏡開き（注2）の頃にやっと体調が改善し,外出する機会が多くなってきた.各種の地元地縁組織の新年互礼会や新年顔合わせ会などの行事が続き,出席の機会が増え始めた.この種の会合につきものの宴会で,飲酒の機会も増えた.年末からアルコールを口にしていなかったので,飲酒には注意していたが,ある宴会後の帰りの夜道で転倒し,額と頭部に裂傷を負い,傷の回復に2週間程度要した. 乙巳の年の睦月は,健康管理を中心とした自己の内側に向けた準備期間だったようだ. 「乙巳」には,「努力を重ね,物事を安定させていく」と言う意味があるという[1].この準備期間のまとめとして今年の自らの行動面での努力の方向性とその安定化のための試みについて考え,事始めとしてみた.
これまでの自分の努力の方向性と安定化への取り組みを,健康管理と社会的行動視点の2つから振返ってみる.健康管理面での努力視点では,スポーツジム通いがこれまでの累積で480日を超え,この睦月を除けば,ほぼそのプログラム[4]を維持できて来た.但し,この取り組みがどの程度免疫力の向上に効果があったのかは分らない.この点に関しては「過ぎたるは猶及ばざるが如し」の配慮に欠けていた（注4）.昨年の新型コロナおよびインフルの感染症に対する経験は,重篤化予防に対するワクチン接種の効果をある程度確認出来た.しかし,感染経路や感染機会が何であったかは,未だに予想できていない.自己予防策(注5)としては,手洗い,うがい,鼻うがい,マスク着用（スポーツジムでのトレーニング中および入浴中は除く）はルーテイン化できて来たように思う.一方,社会的活動視点では,4年間の町会長活動が生活の中心になって来ている.退職後の3年間は,新しい社会環境下での新しい人間ネットワーク創りと町会活動体験を通じて,町会50年間の歩みについての資料作りと先輩諸兄の経験知の形式知化を行い,町会内情報ネットワークに蓄積し続けて来た.これと並行して情報ネットワークの規模の拡大を進め,令和3年度ネットワーク登録率が全世帯の30％余りであった状況から,令和6年度時点で75％を超えるレベルまで高めることができた.この情報システムは,令和3年度時点のコロナ禍での町会活動停止状態からの再生と共に,町会全体への広報機能に通じて,町会活動の相互理解の促進と,結果としての信頼形成および積極的な活動参画の環境創りにある程度貢献してきたと考えたい[4],[8].しかし,その反面で,上記作業の作業量に対する負担感やデジタルに対する抵抗感が生じ,町会長継承者を見出すことが難しい状況も認識されてきた.また,かつてのアナログ的方法に対する回帰要望も出てきたように思われる.町会活動をデジタル化することで,町会役員業務の効率化と高齢化の下での世代交代を円滑に進めるためのこれまでの積上げ資産を今後どのように活用するかが課題となっている.この課題解決に向けて令和8年度に予定される町会創立50周年の機会を活用すべく準備を進める必要性を感じる.そのために,この4年間における「過去の町会50年」の視点から,「今後100年の町会」に向けた視点変更と,町会の今後の「ありたい姿」に関する意見交換と共創のための町会活動へとパラダイムシフトさせていくことが必要ではないか.そのために,従来のアナログ的アプローチとこの4年間で培ってきたデジタル的アプローチの組合せによる仕組み作りに取り組みたい.そのためのロードマップ作りとPDCA実践を,50周年記念事業実行委員長として町会全体を巻き込むことで,これまでの4年間を評価し,これまでの町会活動の努力とその安定化に努めることができないか.
偶然TV番組で,女性歌手のちゃんみな（注6）の存在を知った.放映されたステージシーンからは,かつてのレデイーガガのようなビジュアルの印象を受けた. 「私が社会を変える」 -Z世代を魅了する歌手“ちゃんみな”の闘い-と言うタイトルの番組だった.番組の中で彼女が歌った「美人」という曲の詩の中にある「あの時言ったよな・・・ブスが歌ってるんじゃないよ」,「あのとき狂った精神に才能が開花」,「味わった幸も不幸も一般じゃなかった」,「磨いたらダイヤ美しい（なら お手本になりなさい）」,「生きなさい 今魅せなさい（怖がったままでどうするんだい？）」,「あなたこそダイヤ 美しい（あの彼女を助けない）」などの言葉は,彼女自身の実体験に基づき発せられているという.「美」に対する彼女の定義は,一般社会の既成概念とは異なり,本人自らの確信に基づく定義,すなわち個性で判断すれば良く,自己主張すべきだとの認識だと,インタビューに対する言葉から推察した.言葉の表現は,戦闘的であるが,その心は自分自身を持った上で,人を助けるように自身を変える.「自分を変えて,周り（社会）を変える」ことを言っているように思えた.朝ドラの「おむすび」では,ギャルがテーマの1つになっている[10].この朝ドラでは,ギャルと言う概念が,ファッションというビジュアルを変えることで,心を「陰」から「陽」に変える手段として描かれている.元々,若い女性に対して使われていた言葉,概念を,男性や中年女性層までに拡大した形で取り扱っているように思われる.いずれにしても,既成概念打破の方法の1つとしてイメージされているのではないか.「自分とか,ないから.-教養としての東洋哲学-」（注7）[11]にあるメッセージと類似したイメージを持った.この本は, 仏教（ブッダ,龍樹）,老荘思想（老子,荘子）,禅（達磨）,他力（親鸞）,密教（秘密仏教：空海）を取り上げ,東洋哲学を著者の実体験をもとに,軽妙に解釈,解説した内容になっている.「自分を捨てる（無我）」,「言葉を捨てて『空』や『道（タオ）』の世界に入って,あらゆるものが繋がっている（縁起）ことを実感する」,「空は世界からの解脱（幻）,道は世界を楽しむ（夢）」という世界観の違いなどを指摘し,挫折からの脱出法としての東洋哲学を論じている.このことは,以前のコラム[13]で取り上げた分子生物学者の福岡伸一の唱える,動的平衡論とも共通する.すなわち,生物は体外からの食物やエネルギーを取り込み,これを自らの細胞に取り込んで日々変化することで,周りの全てと繋がっているとの主張である.これは,物的な生命体における縁起の概念であろう.自分は周りの全てと繋がっていることの実感が,自らを変える原動力になっているという共通認識になっているのではないか.
乙巳の年の事始めとして,これまでの自分の努力と方向性と安定化への取り組みを,健康管理と社会的行動視点の2つから振返り,今年の課題のその解決方針を整理した.健康面では,定常化してきたスポーツ・トレーニング・プログラムに免疫力効果を考慮する,自分が周りの全てと繋がっていることの実感を社会的行動視点で体験し，周りの人と物との関わりを「縁起」として理解,実践する.これによって, 「自分を変えて,周りを変える」こと,およびマルクス・ガブリエルの指摘する「精神の自己表現」[14],[15]への自分なりの解を求めつつ,残された人生を楽しむことに挑戦していきたい.
(注1) 「乙」は困難があっても紆余曲折しながら進むことや,しなやかに伸びる草木を表す. 「巳」は蛇のイメージから「再生と変化」を意味する.この2つの組み合わせである乙巳は,「努力を重ね,物事を安定させていく」といった縁起のよさを表しているとされる[1].
(注2) 鏡餅は単なるお供え物というより年神様（トシガミサマ）（注3）が宿るところだと考えられているため,鏡餅を開くことで年神様をお送りするという意味がある. 鏡開きは,「具足祝い」という戦国時代の武士の風習に由来するといわれ,お正月に刀や鎧,兜などの前に鏡餅を供え,それを下ろして食べる行事として始まった. また,鏡餅には「歯固め」という意味もあり,宮中の「歯固め」の儀式に由来し,丈夫な歯の持ち主は何でも食べられ長生きできるので,新年の健康と長寿を願い,固くなった鏡餅を食べる風習があった. 年神様の力が宿った鏡餅をいただくことでその力を授けてもらい,1年の一家の無病息災を願う行事となった. 鏡開きは,年神様がいる「松の内」（1月1日〜1月7日.関西など15日までとする地方もある）が明けた11日に行われる.松の内を15日とする地方では,鏡開きを15日または20日に行う場合が多い[2].
(注3)元旦に家々に新年の幸せをもたらすために,高い山から降りてくる神様を「年神様」という.「正月様」,「歳徳神（トシトクジン）」とも呼ばれている.昔の人は祖先の霊が田の神や山の神になり,正月には年神となって子孫の繁栄を見守ってくれるのだと考えていた.そこで,たくさんの幸せを授かるために年神様をお迎えして,お祝いする様々な風習や行事が生まれた. 小正月(コショウガツ:旧暦の1月15日でその年の最初の満月の日. 正月を大正月(オオショウガツ)と呼ぶ)の頃,神社や寺の境内に門松やしめ飾りなどを持ち寄って燃やす「左義長（サギチョウ）」や「どんど焼き」といわれる行事がある.これは新年に訪れた年神様がその煙に乗って天上に帰っていくとされ,その時の炎で焼いた餅を食べると無病息災,書き初めを燃やすと字が上手になるなど,様々な言い伝えがある.秋田の「なまはげ」や「かまくら」など,地方色豊かな行事もこれに類する行事とされる[3].
(注4)運動が免疫力向上に与える効果については,「免疫力を高めるための適度な運動」と言う指摘がある.「適度」とは, 免疫系はストレスに弱いので,疲労や筋肉痛を起こすような激しい運動はストレスになるため,免疫にとっては良くないことから,「多すぎず,少なすぎず」という問題がある. 適度な運動強度を表す数値には, 換気性作業閾値と心拍数の2つがある. 換気性作業閾値は, 徐々に運動強度を上げていくと急に息が上がるポイントのことで, 息切れしない状態が適度な運動で,息切れする状態は適度な運動を超えていることになる.運動しているときもニコニコ笑いながら会話できる範囲の運動が適度ということで,これを「ニコニコペース」と呼んでいる. 心拍数は,一般的に,220からその人の年齢を引いた値を予測最高心拍数といい,これは運動負荷をかけていった場合の最高の心拍数を指し,この予測最高心拍数の60〜70％で行える運動が適度な運動といわれている.従って,私の場合は,今年74歳なので,（220-74）×0.7＝102が目安となる[5].また, 激しい運動をすると,運動中こそ一時的に免疫機能が高まるものの, 運動後は激しい運動のストレスによって免疫機能が著しく低下し,回復までには数時間〜数日を要する. この免疫機能が低下する期間のことを「オープンウィンドウ」と呼び,ウイルスや細菌などの敵に対して無防備な状態が続き,感染症に罹りやすくなる,とうい指摘もある[6].
(注5)厚生労働省は,感染成立の要因として,�”存饗痢粉鏡�源）,��感染経路,��宿主の3つを上げ,この3つの要因が揃うことで感染するとしている. 感染対策においては,これらの要因のうちひとつでも取り除くことが重要とし,特に,「感染経路の遮断」は,感染拡大防止のためにも重要な対策としている[7].
(注6) ちゃんみな（CHANMINA:1998年〜）は, 日本の女性ラッパー,アーティストで愛称は「練馬のビヨンセ」だという[9].
(注7)この著書の概要は, 藤井満の書評「noteプレミアム」[12]が参考になる.
参考文献・資料
[1] ラクスル株式会社,2025年の干支「乙巳(きのと・み)」はどんな年かを詳しく解説!ラクスルマガジン, 2024年09月11日, https://raksul.com/magazine/column/new-year-card-zodiac-2025/ ,2025.1.25.アクセス
[2] 三浦康子,鏡開きの日とは？2025年はいつ？やり方・由来・禁止事項・餅レシピ, 暮らしの歳時記／正月の行事・楽しみ方（年末年始）All about, https://allabout.co.jp/gm/gc/220640/ ,2025.1.25.アクセス
[3]紀文, お正月と年神様-お正月のいわれ-,
https://www.kibun.co.jp/knowledge/shogatsu/iware/toshigamisama.html#:~: ,2025.1.25.アクセス
[4] 石井和克,自分を変えて環境を変えられるか−ポモドーロ・テクニックの実践と経過−,コラム KAZU'S VIEW, 2023年02月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=236 , 2025.1.25アクセス
[5]鈴木克彦，適度な運動で免疫力向上,Kaoヘルスケアレポート, https://www.kao.com/jp/healthscience/report/report064/report064_01/#:~: ,2025.1.25.アクセス
[6] 酒井リズ智子監修, 運動と免疫,免疫navi,大塚製薬, https://www.otsuka.co.jp/men-eki/exercise/ ,2025.1.25.アクセス
[7]厚生労働省, 感染対策の基礎知識, https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf ,2025.1.25.アクセス
[8] 石井和克,年男だった癸卯年を「認知的ニッチ構築」仮説で振返る,コラム KAZU'S VIEW, 2023年12月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=246 , 2025.1.25アクセス
[9] フリー百科事典（ウィキペディア（Wikipedia））,ちゃんみな, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%BF%E3%81%AA ,2025.1.29アクセス
[10] NHK,連続テレビ小説おむすび, https://www.nhk.jp/p/omusubi/ts/NJ1W7VQ6W9/ , 2025.1.29アクセス
[11] しんめいP著,鎌田東二監修,自分とか,ないから.-教養としての東洋哲学-,サンクチュアリ出版(2024)
[12] 藤井 満,自分とかないから.＜しんめいP著,鎌田東二監修＞,note プレミアム2024年10月26日 12:36 https://note.com/fujiiman/n/n270117ebfb62 , 2025.1.29アクセス
[13] 石井和克,いきものは諸行無常そのものか：福岡伸一の動的平衡論的生命観：,コラム KAZU'S VIEW, 2023年11月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=257 , 2025.1.25アクセス
[14] 石井和克, 人類繁栄とその未来：人類の現状をマルサスの罠から考える：,コラム KAZU'S VIEW, 2024年12月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=258 , 2025.1.25アクセス
[15] 渡部泰成,「AIは異星人の知性」-哲学界の若き巨人が鳴らす警鐘-テクノ新世インタビュー ボン大学のマルクス・ガブリエル教授,テクノ新世,2023年7月3日,日本経済新聞, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF162LY0W3A610C2000000/ ,2025.1.25アクセス
令和7年1月
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