コラム KAZU'S VIEW
2025年03月
ここ数年の3月はスポーツ月間の様相を呈して来た-アスリートからの元気玉の活用法-
大相撲春場所に続きMBL開幕シリーズ2025（MBL World Tour Tokyo Series 2025）,更にサッカーのFIFAワールドカップアジア予選や第97回選抜高等学校野球大会,世界フィギュアスケート選手権2025などなど,連日スポーツ番組で日本人アスリートの活躍が報道され,ワクワク・ドキドキの感動体験が続いている.昨年の3月のコラムは,「100年に一度の意味を考える―尊富士の偉業からの気づき―」[1]で尊富士や大谷翔平選手の活躍から「人生100年への挑戦ロードマップ」作成への動機付けを得た.その時の動機付けから1年たった自分の変化をこのコラムに映し出される自分の姿を通じて検証してみた.
1年間のコラムを通じた自分の心の動きを見てみる[2]〜[12]. 各タイトルから見てとれるものをキーワードを1つづつ拾い上げてみる.「国家」,[絆],「スポーツと国の変化」,「心身」,「老い」,「AI」,「諸行無常」,「人類の繁栄」,「負のループ」,「終末時計」などが並ぶ.自分の心の陰陽の振り子が,これらの単語群から垣間見られる.次にコラムの結論の中の気になるフレーズをピックアップすると,以下のものが上がる.
「日本の国際貢献は輪と和を広げること」[2],
「残りの人生の楽しみは,自己が周りの全てと繋がっていることを実証的に理解し,実践することで,自分を変えて周り（地域社会・国・世界）を変えること」[3],
「自分が何者であるかを問い続けるという精神の自己表現が,ホモ・サピエンスが生き残って来た最も有効な要因である」[4],
「自らを壊すことが生命の進化での最大の獲得物であり, 老化は合成（創造）と分解（破壊）の振り子の減衰現象である.この現象認識過程が生きることになる」[5],
「ホモ・サピエンスの賢さを,AIに心を持たせるのか,AIとホモの仕分けをおこなうのかの何れに使うべきかが,人間が科学技術に向き合う課題」[6],
「100年という人生は悟りへの道であり,自らの心身(認知機能と肉体機能)の振り子の減衰状況を検知しながらロードマップを着実に歩み続ける覚悟が必要」[7],
「年齢が高くなるにつれて,体（身）の状態と心の状態の関係は弱くなるとうい仮説を自らの心身の対話の中から見出すことが,老後のロードマップの描き方」[8],
「失われた30年は心的価値と経済的価値の両面での向上への助走期間・学習期間」[9],
「自己主張という日常の創発性の中に,想定内と想定外の両方を人の脳は喜ぶ」[10],
「民主主義と和をもって貴しとなすことの融合」[11],
「国の統合と科学技術の役割」[12],
以上がコラムの結論から印象の強いメッセージとして認識出来る.ここから見出せることは,命（生きること）とは振り子の振動であり,その振り子は,「心と体（身）」,「個人（内）と社会（外）」,「分解（破壊）と合成（創造）」のような様々な対の間を揺れ動く現象と考えている自分がいることを確認出来る.そして,この振り子の揺れ幅が零となった時が「死」となる.また,科学技術は,振り子の対の設定関係を左右する存在である.すなわち,科学技術は創造と破壊の両面に機能するし,個人と社会の関係性を変えうるし,AIは心（感動）と体（行動）の関係の認識を変えうる,という科学技術視観である.
上記のような「振り子モデル」による現象認識法は,これまでの自身の研究者ならびに教育者としての経験とによって形成してきたものである.これを意識的にモデル化しようとしたきっかけは,「価値モデル」の構築に取り組んだ時であった. このテーマは当時,失われた20年の原因を探り,新たな価値創りを通じて日本産業の競争力向上策を産官学で検討する,という研究プロジェクトの中から出て来たものであった.この価値モデルは,「誰の価値か？」と「どんな特性の価値か？」の2軸で価値を分類し,更に,「誰の」を自分ならびに自分の所属する組織の内外に識別する.一方,価値の特性は心的,経済的および物的に区分化した平面上で,時間経過に伴い変化していくという捉え方である[13],[14].この価値の変化を「振り子」を使って認識し,現在の振れ方に対する次のふれ方を「予測する」,あるいは「創造する」と言う視点から「新たな価値創造」を目指そうというものであった.その後,このモデルをキャリア・デザインの教育プログラム開発[15]に際に,「自分を変える」をテーマにした自己啓発と相互啓発の認識法として,「行動と感動の振り子モデル」を考案した[16].このモデルを使って自己啓発を自己の内部で心（精神）の振動を大きく振らすことで大きな行動変革を起こす行為として規定した.一方,相互啓発は他者の行動に対する共感を通じて,自身の心を共鳴させ,行動の振動を増幅させ,これを行動変革に繋げる行為とした.例えば,スポーツ選手の優れた行動やパフォーマンスを見て感動し,この振動を自らの感動に共振させた上で,行動への振り子に伝えていくような場合が相互啓発に当たる.更に,感動という心の振動は,情動（emotion）と気分（Mood）に区分する.情動は, �仝彊�がはっきりしている.��急激に生起し,短時間で消失する.��生理的反応を伴う.と言う特性を持つが,気分は穏やかな感情である.時間経過の側面からは,情動がやがて気分へと推移する[17].従って,行動を変えるような大きなエネルギーを持つ感動は,気分より情動の方が有効に作用する.また,感動という心の動きを司る脳の構造面からの考察として,「新脳と旧脳の振り子モデル」も合せて提唱した[16].すなわち,旧脳は大脳辺縁系と呼ばれる脳の一部で,人間が動物として生きていた時代から持ち合わせている本能の部分である.これに対し,新脳は大脳皮質と呼ばれる部分で,人間（ホモ）という属の唯一存続しているサピエンス種が進化の過程で獲得した部分として肥大化した.その情報処理側面での特性は,旧脳は処理速度が早いが,新脳は遅い.その処理対象は,新脳は理性や知性であるのに対し,旧脳は情動であり,いわゆる直感と言われる意思決定パターンを持つ.直感による意思決定結果を論理的に説明する部分が新脳の機能になる.振り子は常に動いていることから,諸行無常に通じ,振動の停止は死を意味する.また,振り子の動きは2次元上では,左右対称の動きで,その中心は左右の平衡状態を作り出している.
退職して3年が経過した.この間の環境変化やライフ・スタイルの変化にも慣れて来た.退職以前の記憶もだんだん薄れてきてことは,新たな環境や関心事に対する経験やそれに伴う学習成果の様な気がする.環境の変化をどのように受け止めているか,自分の感性の感度がどのような状態かをこの一年間のコラムを通じて振替えると,その認識法や発想が40〜50代に身につけたものが色濃く残っていることに気付かされる.「現状打破」や「自分を変える」という言葉から「創造性」をテーマとして扱ってきた延長上で,死を強く意識し出した年齢になり,外部からの制約の少ない環境の中で,改めて「自分探し」をしている姿が見える.一方で,老化は感性としての感度を減衰させて来ているような自覚もある.今の生活は,思いがけなく地縁組織の会長という役職を4年以上続けている中で,令和8年に迎える創立50周年記念事業へのロードマップの最終段階に最大の関心がある.退職後の5年間の決算としてこれに取り組む機会を得たことを幸せと考え,その結果を見ることを楽しみに,後期高齢者への仲間入りのステージを待ちたい.多くの日本のアスリートの活躍からの感動を通じて「元気」,「陽気」,「勇気」の三気のエネルギーをもらいながら.
参考文献・資料
[1] 石井和克,100年に一度の意味を考える―尊富士の偉業からの気づき―,コラム KAZU'S VIEW 2024年03月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=249 ,2025.3.23アクセス
[2] 石井和克,終末時計の刻む時が意味するもの-人類最後の日の選択肢-,コラム KAZU'S VIEW 2025年02月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=260 ,2025.3.23アクセス
[3] 石井和克,乙巳の年の事始め-甲辰の年の負のループからの脱却を目指して-,コラム KAZU'S VIEW 2025年01月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=259 ,2025.3.23アクセス
[4] 石井和克,人類繁栄とその未来：人類の現状をマルサスの罠から考える：,コラム KAZU'S VIEW 2024年12月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=258 ,2025.3.23アクセス
[5] 石井和克,いきものは諸行無常そのものか：福岡伸一の動的平衡論的生命観：,コラム KAZU'S VIEW 2024年11月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=257 ,2025.3.23アクセス
[6] 石井和克,AIの光と影：ノーベル賞がAIの研究者に与えられた意味を考える：,コラム KAZU'S VIEW 2024年10月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=256 ,2025.3.23アクセス
[7] 石井和克,敬老の日に思う「老いの幸せ」とは,コラム KAZU'S VIEW 2024年09月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=255 ,2025.3.23アクセス
[8] 石井和克,体調変化の自覚の仕方-心身の関係性から見た老化の意味-,コラム KAZU'S VIEW 2024年08月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=254 ,2025.3.23アクセス
[9] 石井和克,パリオリンピック2024は日本の失われた30年の転換の機会になるか,コラム KAZU'S VIEW 2024年07月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=253 ,2025.3.23アクセス
[10] 石井和克,ヒトはなぜ歌うのか―絆づくりの事始め−,コラム KAZU'S VIEW 2024年06月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=252 ,2025.3.23アクセス
[11] 石井和克,国家とは何か―改めて考えてみる自分にとっての国の価値―,コラム KAZU'S VIEW 2024年05月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=251 ,2025.3.23アクセス
[12] 石井和克,薯童謠（ソドンヨ）で感じたこと―個人と国家の幸せの融合―,コラム KAZU'S VIEW 2024年04月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=250 ,2025.3.23アクセス
[13] 平木秀作編著,市村隆哉,片山 博,石井和克,加茂紀子子著，国際協力による自動車部品相互補完システム,渓水社 (2004)
[14] K.Ishii, A production research to create new value of business output, Int’l. J. of Production Research,51(23-24),pp.7313-7328(2013), https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00207543.2013.857441 ,2025.3.30アクセス
[15] 石井和克他,技術系教養課程の技術マネジメント教育プログラムの開発,工学教育,Vol.65.No.2,pp.21-25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee/65/2/65_2_21/_article/-char/ja/ , 2025.3.30アクセス
[16] 石井和克, 第6章管理の輪に基づくキャリア・デザイン,金沢工業大学技術マネジメント動画教材（2018）
[17] 相川充,リーダーシップ特論講義配付資料(2012)に加筆・修正
令和7年3月
以上
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