コラム KAZU'S VIEW

2009年06月

スターの恋(チェ・ジウ主演)のドラマに見る家庭回帰のテーマ

BSテレビの韓国映画でチェ・ジウ主演の「スターの恋」というドラマを見て久しぶりに心しみいる懐かしさを覚えた。かなりはまって、次週が待ち遠しい気持ちを抑えることができなかった。あらすじは、チェ・ジウ演じるアジア一の女優イ・マリが主人公。その所属会社の社長ソ・テソクの売り込み策として代筆による小説を出版することがきっかけで、女優と代筆作家のユ・ジテ演じる大学講師キム・チョルスの恋愛ストーリーが始まる。イ・マリとキム・チョルスを取り巻く人々の様々な恋愛劇、芸能界でのゴシップの画策とその対応などを交え、親子問題、著作権問題など盛りだくさんなストーリー展開で20回構成になっていた。脚本は「冬のソナタ」のオ・スヨン。かなり冬ソナ(2004年11月コラム参照)のイメージを引きずっているものの懐かしさも感じる。イ・マリの初恋の写真家ソ・ウジン役の俳優がペヨンジュンに似たチェ・フィリップという演出。また、小説は日本で作成されたという想定で奈良をはじめ、大阪、神戸で撮影されたシーンも身近なイメージをかき立てる。また、奈良の風景が韓国南部の景色とも重なり、日本人に距離感を感じさせない映像でもあった。1996年10月に韓国のKyongju (慶州市):を訪れた時、その景色にとても懐かしさ感じた記憶がある。それは小高い丘が多数あり、それがいわゆる古墳になっているものであった。
キム・チョルスは子どもの頃に母親に捨てられ、それがトラウマでマザコンとなる。その母親はジャズ歌手で駆け落ちしてアメリカに渡る。捨てられたキム・チョルス兄妹を引き取り育てる食堂経営している3人の女性の脇役がドラマを大いに盛り上げる。この食堂が血の繋がらない多くの人々の家庭・家族となり、この空間で人間模様の悲喜交々(ヒキコモゴモ)がこのドラマを魅力的にしている。権謀術策渦巻く芸能界で人間不信とフラストレーション、そして失恋に苛(サイナ)まされた人々が心の救いを得る。かつての良き時代の日本における向こう三軒両隣の人間くささとほのぼのとした暖かみを懐かしく思い出させる演出と演技が印象的であった。このドラマのもう一つのストーリーはキム・チョルスの母親とイ・マリが歌手と俳優というアーテイスト的性格の共通性。イ・マリの生い立ちも早くに両親を失ったというキム・チョルスとの共通性。
ハッピーエンドで終わる最終回はイ・マリがハリウッドで女優業を続けるためにキム・チョルスはアメリカに行き、やがて子どもが出来、親子3人が公園のベンチで一家団欒を楽しみつつ、近くのベンチで語り合う幸せそうな老夫婦を見て、自分たちの将来の姿を重ねて見るシーンは家庭の暖かみに飢えていた2人が周りの人々に支えられつつ、2人で様々な困難を克服し、夢のある家庭形成へのたどり着く全体のストーリーの総括として受け止められた。1982年に出版された穂積隆信著「積木くずし-親と子の二百日戦争-」は子供の非行から始まった「家庭崩壊」が話題を呼んだ。その後、日本の家庭にまつわる様々な問題が生じてきている。今年の2月のコラムでは長崎県の「ココロねっこ運動」で家族の心の繋がりの基本が家庭にあることを、3月のコラムではエマニュエル・トッドの家庭構造が世界の政治・経済の変化の先行指標となることを取り上げた。儒教的価値観が強く反映している韓国で作られた「家庭回帰」のドラマはチェ・ジウという女優が自らの女優業と重ねて、働く厳しさと家庭の暖かみを爽やかに描いているところに同じ女性が働くことをテーマにした「プラダを着た悪魔」(2008年2月コラム)とは違ったこのドラマの魅力があるのではないだろうか。

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